6.留意点

 ハンドボールにおけるトレーニングの一般的留意点を,これまでのように技術・戦術的な側面,体力的な側面,精神的な側面の3点からそれぞれ考えてみよう。
 技術・戦術面でのトレーニングにおいては,それぞれのチームを考えた場合には,指導者のハンドボールに対するゲーム構想に基づいた戦術のもとに計画されたプログラムによって,実施されることが望ましい。
 しかし,トレーニング時間の問題などで,どうしても個人技能よりも戦術優先という状況が多いように思われる。そのため早い時期から専門化されてしまい,その他はできないという状況が生まれたり,現時点でこれができない選手はダメな選手である,という判断をしている場合も多いように思われる。特に,まだ早い時期でのトレーニングでは,このことは十分に考慮して,それぞれ個人の技能を高めることを重視したトレーニングが必要である。
 このこととあわせて,国内レベルで一貫したゲーム構想やハンドボール感を持ち,それぞれのレベルにおいて,ハンドボールの技術・戦術の達成水準を設定し(例えば小学生では,このレベルまで身につけるというような),一貫したトレーニングができるようなシステムかどうかを考えることも必要であると思われる。
 また,国内のトップレベルは,世界の情報を常時集めて技術・戦術の検討を行い,その中で今後の方向を打ち出し,それに基づいて選手の育成や発掘をして計画的なトレーニングを行う必要がある。そのための組織づくりが重要になってくる。
 体力的な側面からトレーニングを考えた場合,まずこの章のはじめにも書いたように,ハンドボールの選手として必要な体力には,一般的体力と専門的体力がある。特に専門的体力に関して,指導者がハンドボールのゲーム構造や技術構造を十分に考え,そのトレーニング処方をする必要があるということである。そして実際のトレーニングにあたっては,選手の発育・発達の状況に応じた負荷の与え方,休養の入れ方を考えて計画的に行うことが必要である。これを怠たるとけがをしたり,発育上に影響を及ぼしたり,過労の原因となることも多々ある。
 また,筋力トレーニングによって無駄に筋繊維を太くし,逆にスピードが落ちる(特に腕などこともあるので,どこを何のためにということを常に考え,選手に意識させて実施させ,それを管理する必要がある。
 また,中学校,高等学校でのトレーニングでは,選手のいろいろな可能性を考えて早くから専門化しすぎることなく,一般的な体力,専門的な筋力,持久力,柔軟性,スピードとバランスのとれたトレーニングを実施することが必要であり,そこからいろいろな可能性が生まれる。
 精神的な側面からは,現在いろいろなスポーツで言われているように,指導者は,早い時期での選手の「燃えつき症候群」,バーンアウト現象に十分注意をする必要がある。
 これは,わが国においては勝利志向主義が強く,どのレベルにおいても早い時期から「勝たなければ」という気持ちが前面に出て,選手たちに余裕や楽しみというものがなくなるからであると思われる。
 やはり,まだ小さいうちはいろいろなことをモチベーション的にやらせて動機づけをさせ,それから徐々に小学校,中学校,高等学校,それ以上とそれぞれのレベルで目標を明らかにし,新しい目標へ選手の気持ちを向上させる努力も必要であると思われる。
 また,この精神的な面でのトレーニングは,格闘球技と呼ばれているハンドボールの場合,闘争心,平常心,ねばり強さというものが必要なために,日々ある程度の精神的な負荷の中でのトレーニングによって養わなければならないものである。

■参考文献
1)渡辺慶寿・大西武三・川上整司著「実戦ハンドボ ール』大修館
2)宇津野年一著「最新ハンドボール技術(攻撃・防御編)」ベースボールマガジン社
3)石井決喜八・北川勇喜編著「ハンドボール』大修 館
4)豊田博・島津大室著「バレーボール教室」大修館
5)宗内徳行・豊田博著「練習法百科 バレーボール」 大修館
6)小林義雄・竹内伸也「ストレッチング」講談社

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