4 意味分析の諸問題
これまでの考察から、ここでは球技の指導者に求められる能力、そして敵方の情況、および味方との情況の意味分析の諸問題を整理してみたい。さらに、例証を分析することで導かれた観察カテゴリーについて列挙してみたい。
- ⑴、まずもって、球技の指導者に求められる独自の運動感覚能力は、チームとして実現可能性の高い特殊ゲーム構想を練り上げる能力である。それはゲーム解釈とその構造的な認識に基づいており、ゲーム中の直接的な運動感覚能力ではない。しかし、具体的に選手の現況に見合った戦術の動きを工夫し、選手に納得させていく場合には、どうしても運動感覚を持ち込まない訳にはいかない。また、目下のゲーム情況において、ゲームの流れを感じ取るゲーム感覚は、当の情況を見抜く判断力を支えるものとして欠かせない。ここで、情況を判断し、ある決定を選手たちに伝える場合には、個人の動きから、個と個との関係系から生じる動きへと、そのつど視点を変更しながら共感し、指示できる能力が必要とされる。とりわけビデオによるゲーム観察に際しては、ゲームの流れに決定的な影響を与えているゲームの諸局面を含んだ場面を抽出することができる能力が求められよう。
- ⑵、ゲーム経過における敵方の情況の意味構造分析の問題を考えてみる。まず、特殊ゲーム構想段階における敵情分析において、全員である程度敵方チームのメンバーや競技力の特徴を把握したり、敵方の戦術を推定しておくことは戦うための前提である。ところが、当のゲーム情況では、予想を裏切ることが多い。したがって、ゲーム構想を変更する場合や、新たな手を打たなければならない時に、目下のゲーム情況を見抜く判断力がものをいう。しかし、ゲームの流れも敵方の意図も読めないことによって、戦い方を見出せないことがある。そんな時には、当の情況に身を置いているリードオフマンに完全にゲームコントロールを委ねてしまうことがある。とはいえ、注意深くゲーム情況を観察し、取るに足らないことでも、気づいたことを必ずメモするようにしてきた。これが情況を打開するのに少なからず役立つ。また、非常に恐いことであるが、自分自身が味方との情況と結び付くのを一旦やめてしまい、完全に敵方の視点から味方の様子を観察することも重要である。
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