ハンドボールにおける意味構造の例証分析的一考察

1 ゲーム情況における問題意識

あるゲーム情況というものは、ゲーム全体の流れにより、偶然的に生じることもあるし、必然的に生じることもある。それぞれのチームは、当のゲーム情況と対峙しながら、そのつど敵方の出方を見て、それに味方が応じようとしたり、あるいは敵方を味方に応じさせようとすることもある。すなわち両者は、時機をうかがいながら、意図的な行動によって、ゲーム情況を一変させ、ゲームの流れを呼び込もうとする。それゆえ、日頃より我々は、いわゆる戦い方という視点から、ゲームを構想したり直接的に指導したりすることができるように、生き生きしたゲーム情況の成り立ちを明らかにしておく必要があった。

ところで、我が国の球技の世界では、戦い方を意味する用語に戦術がある。そしてこの用語と密接に関連して、戦略と作戦がある。しかし未だに、これらの用語が概念的に混同されることがある。ドイツで確立された球技の一般理論(球技論)では、とりわけ戦術と関連して、「ゲーム構想」(Spielkonzeption)の用語が主に使われ、それは「戦術的な構想の特殊な形式であり、ゲームを形成するために思考された草案、計画」 ⅰと規定されている。したがって、この構想がはっきりしているかどうかは、ゲーム情況に見事に反映される。戦術は、基本的にはこのように構想されることもあるが、実際には、試合中のある一定の攻防情況での個人や集団による最適な戦い方である。また戦略とは、「一定の成果を収めるという目標をもった行為の計画と決定方法のシステムに基づいて、あるチームを長期的に準備すること」ⅱ である。すなわちそれは、チームの活動を支える全体計画である。この場合、作戦とは、戦術を戦略に不可分に結び付けるものである ⅲ。したがって、敵方や味方の現状に応じて、戦術を工夫することが作戦と考えられる。それゆえ、戦略と作戦の概念は、いずれもゲーム構想の概念に包含されてしまう。

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