とはいえハンドボールの実践では、やはり「1対1で始まり1対1で終わる」といわれるほど、その情況での動きが重視されてきた。ハンドボールは、人間の身体で最も器用とされる手でボールを操作できるという点に加え、ボールの大きさや重さが手頃なため、ボールを操作する感覚がつかみやすいという特性がある。また、手に松やにや両面テープをつけて、ボールをより容易に扱うことも可能になっている。それゆえハンドボールは、他の球技とくらべて、様々な戦術を覚えたり、技術を工夫するのに適しているといえる。とりわけ1対1の対決情況では、お互い身体接触がある程度許されているので、体を張った激しい位置どりや突破等が観られ、審判はファールの判定に戸惑うことが多い。そういう意味で、フェイントからの突破や、こういった連続わざの阻止に成功した選手の運動諸経過には際立った対応動作が観察できる。それは、ゲームという力動構造の中では、まさに「全情況への運動的応答」と表現できるのである 。

ここでは、とりわけ場面①③におけるセットでの防御者のつめと方向づけに着目してみた。

〈場面① 防御の戦術に力点を置いた動き〉

防御者たちは、小刻みに足を動かしながらつめの感覚を呼び込んで位置どる。O選手(左45度)は、敵方左利きエース10番(右45度)が、位置どりの中でボールを捕ろうとした瞬間に、自由に動ける間合いをとらせないようにつめることで、投げ腕にプレッシャーをかけることができている。いわゆるプレーを制限することに成功している。「つめたら何かをさせない」のである。そこでは、どのくらいの距離をつめるかは問題ではない。「1、2」の二歩のリズムで、一呼吸でボールにつめることは、練習である程度習慣化されてきた。さらに、敵方と直接的に対峙しながらも、情況判断がうまくできるように、姿勢を起こそうとしている。そして敵方に対して、足のスタンスとつま先の向きによって、位置どりのずれを作りながら、抜かせたい内側(イン)にサイドステップで方向づけることに成功している。その際、フォローするK選手(トップ)は、O選手のつめに共感し、動きが連動しており、支援することができている。さらに、先を読みながら敵方5番(センター)を待っていたI選手(右45度)は、少しつめた後に引いたように見せかけて実は待つ。意図的に空けたスペースに敵方を誘い込んでチャージをもらったのである。

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