1.はじめに

実際の指導の現場では,我々は,運動(Bewegung)を観て、それを説明したり言表したりすることは避けられない。したがって,このような指導技術を確かなものにするために,我々は,観察と記述によって,ハンドボールに特有な運動を,正しく認識している必凄がある。それゆえ,まず,認識獲得の方法論的枠組を確立することが急務である。そこで本研究では,記述科学としてのスポーツ運動学の確立を目指したマイネル(Meinel,K.)と,彼の考えを個別運動学に応用した金子等の,いわゆる一般運動学的知見に学びながら,観察と記述によってハンドポールに特有な運動をとらえるのに有効な方法を,事例をあげて検討し,その方向性と問題性を示そうとした。

2.観察と記述の対象一目的

我々がいつも出会っている運動は,ゲームとか練習の場で生起する具体的運動である。しかもそこにおいて,我々は,勝敗とか得点に関心を向けるばかりでなく,目の前にある運動の経過的側面に注意を払っているのに気づく。すなわち,我々の最初の関心は,この運動経過(Bewegungsablauf)であり,「運動経過というものは,ある具体的な情況の中で,一定の競技規則のもとで,固有なある目標設定とともに,ある一定の競技者の運動として具体的にのみ存在する」1)のである。さらにこの運動経過は,他者との対峙(Auseinandersetzung)において,刻々と変化する情況に対応すぺく生起する。それゆえこの運動経過の中には,プリューゲ(Plügge,H.)のいうように,反応ではなく「対応力」(Schlagfertigkeit)2)としての動作が観察される。そこで,たとえば,個人のシュートという運動形態(Bewegungsform)3)の中に,キーパーをかわすという対応としてのさばき方,いわゆる対応動作見抜く時,そのある部分は,人間の心の働きの現われと解釈できよう。すなわち,そこにフェッッ(Fetz,F.)のいうような,心的過程としての「運動の先取り」(Bewegungsvorausnahme)の概念4)が考えられる。それによれば.たとえば個人がシュートする際には,随意運動が実施される以前か最中に,キーパーの動きや周界の情況に対応すべき自分の運動の課題や解決法が「運動投企」(Bewegungsentwurf」として内的に表象されるのであるが,運動実施中には.これらの心的なものが心的微衷として.つまり先取り動作として観察される点に着目する必要がある。すなわち.マイネルのいうように.達成された運動経過の質的徴表として示される点5)こそ,我々が最初に感得するものに他ならない。それゆえ,ゲーム情況に対応したシュート運動の運動形態は,先取りの動作が伴うゆえ,個人によって体得されているいくつかの運動形態の中から.選択され,運動投企として図式化され,決定されたものと解釈されよう。

以上のことから,我々は.ゲームに有効に対処するために,このような運動形態を,練習の対象とすべき技として確立し,技の運動経過の成り立ちを明らかにする必要がある。さらに,技の課題の合理的客観的な仕方としての「運動技術」(Bewegungstechnik)6)を明らかにし,

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