カウントダウンゲームがうまれた経緯

6 突破(ゴール)型ハンドボールの系統的指導のあり方について

今回は、各先生方の単元を通しての実際の指導過程を把握することができていませんが、おそらくその時々で、教材づくりを含めた指導の創意工夫を多々されてきたものと思われます。

それでも各授業提案のビデオを観察すると、どの先生方も子どもたちを真摯に導こうとしており、そこには教師の人柄とともに、教師の指導性、もしくは指導能力といったものを感じることができ

、勉強になります。

例えば、高学年の清水実践、内田実践、中学年の木谷実践、山本実践、小岩井実践があげられます。筆者が参与観察をしてきた限りにおいて、いずれの実践においても、②の実際の指導の系統性の側面を見抜くことができます。したがって、系統的指導のあり方を明らかにするためには、実際の指導の系統性の側面からの教材づくりについてさらに深く検討しなければなりません。

そのためには、どうしても研究者自身の実践例を取り扱う必要性が出てきます。そこでは、教えることの実感を持つことができるとともに、子どもたちの動きかたの創造的な発生を促す指導者としての能力が直接問われることになるからです。


この事例は、2012年3月10(土)、今回で4回目となる青森県十和田市でのハンドボール教室における指導です(図9を参照のこと)。

z9

十和田スポ少での経験者41名とハンドボール未経験者56名の小学生、計97名が集まりましたが、特に未経験の低学年1年生4名と2年生17名、計21名を中心に指導しました。それは、1月下旬に、ある小学校で行われたオープン研修会で、小学校1年生を対象とした簡易ハンドボールの授業提案の一場面に悔いが残ってしまったからです。

筆者が指導助言者なので、責任の一端は私にあります。その場面は、5歩程度歩けると規定されたゲームの中で、ある子どもがボールを持って、「1、2、3、4、5」と歩数を数えながら移動する後について、味方も相手もダンゴ状になって移動するという光景です。

1年生では最初のうちはどんなゲームをやっても、「ダンゴ型」になるのは自然です。ボールゲームをやろうとする子どもは、飴に群がるアリのようにボールに集まらなければ困ります(この集まり方には集団の動きかたの大切な機能面があります)。数回の授業を経過しているにもかかわらず、皆がボールを捕ろうとして集まってきてしまうゲーム様相を発展させることに失敗してしまいました。

移動の手段として、まずステップに意識を向けさせてしまった結果、ますますダンゴを助長させてしまいました。つまり、「ダンゴ型」から「飛び出し型」に向かわせる手立てをきちんと講じていなかったのです。

オープン研修会の反省を終え、今回の十和田での指導に際して、筆者自身が構想し、試したゲームは、ボールがバクハツするものです。もちろんボールそのものはバクハツしません(教材用1号球は、カラフルで、中空で、ざらざらで使い易いものです)。ボール保持者を中心としたダンゴ状態を思い切って解消するために、群集が散らばることが必要だと感じていました。とはいえ、低学年では遠くにボールを投げられる子どもはあまりいないので、すぐに飛び出しを期待することはできません・・・・。

「ああ、そうか!」バクダンだ。子どもはバクハツとともにボールが放られるのを予期することで、きっとボール離しが良くなると感じることができました。同時に、バクハツを予期し易いように、カウントを数えることが大事になると思われました。「3、2、1、バーン!」=<ボールを放る>の図式です。そして、そのカウントを数えるのは、守りに回る子どもたちの仕事です。しかし、指導をしながら気づいたことは、まさに今ここで、子どもと一緒にいる指導者こそカウントを数えるのに適した存在であるということでした。

筆者の主観ですが、この構想と試みはある程度上手く行き、低学年の子どもたちは皆、はち切れんばかりにゲームに興じているようでした。カウントを数える間に、ボール保持者(ドリブルも保持と考える)は自然に、3〜5歩移動するし、周りの味方も相手もボールから離れるようになりました。したがって、最初の内は、放られたボールがルーズボールとなって、またダンゴ状態になりましたが、すぐにパスに変化する兆しを観て取ることができました。

このバクハツが新たなゲーム様相として、「飛び出し型」の前に「散らばり型」を発生させたので、筆者はただ嬉しくて、「バクダンゲーム」とネーミングしてしまいました。ところが、教室に居合わせたある指導主事から、バクダンは教育的ではないからネーミングを変えなさいと叱られてしまいました。帰りの車の中で、助手をしていただいた2人の学生とあれやこれやと相談しながら、ついに「攻めと守りのある」、「カウントダウンゲーム」という教材が誕生した次第です。

ここで重要なことは、実践の中で、「ああ、そうか!」と洞察できるが時があり、この洞察によって、ある道筋が具体的な像に向かって頭に描けるときがあるということです。実際の指導の系統性の側面から、新たな教材を創作して行くためには、このような事例を分析して行かなければなりません。多いに実践し、事例を積み重ね、まとめていくという忍耐強い継続性が大切だと思っています。

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