4 突破(ゴール)型ハンドボールの教材配列の系統性について

 すでに筆者らは、わが国の小学生のためのハンドボールの指導体系を確立するために、2004年までに公表された小学生のハンドボール指導の実践研究と実践報告における教材づくりの問題点とその解決の糸口を、教材配列の側面から以下のようにまとめています。

1)子どもの一般的な準備状況、例えばマイネル(Meinel,K.,1960)の運動発達論(表8、表9を参照のこと)を考慮することが不足している。

h8

h9

現在、丸井ら(2007,2008,2009,2010)によって、特にゲーム場面における「投」「捕」の運動発達とゲーム様相の発展の関係について、事例研究として深められています。そこでは、ゲーム様相が、「ダンゴ型」、「飛び出し型」、「半ゾーン型」、「ゾーン型」、「システム発生型」の5位相に想定されています。

2)正規の突破(ゴール)型ゲームの構造的な特性を正しく把握することが不足している。

ハンドボールの教材づくりには、本物のハンドボールの研究が必要だと思います。例えば、図2は、筆者がとらえているゲームの構造的な特性です(図2を参照のこと)。

z⒉

左側の図は、ハンドボールのルール上のコート空間を示し、右の図は、人間が競技場に立った位置から鳥瞰したコート空間を示しています。前者は物理学的な空間(物理空間)であるのに対して、後者はコートの遠近感とコート上での“行きつ戻りつ”の運動感覚を感得する人間学的な空間(体験空間)を示しています。図3は、後者の視点から、突破(ゴール)型ハンドボールのゲームの局面をとらえ、戦術上の課題を浮き彫りにしたものです(図3を参照のこと)。

z3

3)特にタスク(課題)ゲームの領域において教材の系統性の認識が不足している。

そしてこれらの問題点の解決を目指して、次のようなゲーム教材を中心とした、教材づくりの一応の方向性を提案しています(表10を参照のこと)。

h10

 ①ボール操作(用具操作):様々な情況を設定したボール遊びを通じて、上手な動きかたの前提となるボール操作の感覚づくりを目指す。ここでは考察しません。

②基礎ゲーム:正規のゲームの基礎となるボールを持たない動きかたが含まれた準備的な段階のゲーム形態。そこでは、ある局面を打開する戦術の基礎・基本となる動きの感覚づくりを目指す。

③予備ゲーム:正規のゲームの理念、すなわちゲームの基本形態(そのゲームならではのもの)が反映され、ルールが簡易化された段階のゲーム形態。そこでは、ルールの意味と簡単な戦術上の課題との関連を認識し、その解決法を身につけることを目指す。

④ミニハンドボール:目標ゲームへの橋渡しのためのゲーム形態。ドイツなどでは統一ルールはもとより、指導の体系化が進んでいます。ここでは考察しません。

⑤目標ゲーム:正規か、ほぼ正規に近い最終目標とするゲーム形態。そこでは、ルールの認識はもとより、運動技術の習熟と組織的な戦術を要求する。

ここでは、「ゲームはゲームを通して上達する」という認識に基づいて、まずもってドリルゲームとタスクゲームの概念をとらえなおし、ゲーム形態の配列を柱にしています。つまり、子どもの運動発達とゲームの系統性(学習内容の類縁性)という側面から、タスクゲームの領域を、基礎ゲームと予備ゲームから構成される学習過程としてとらえなおした上で、運動の系統的な練習形態との相互依存的な関係を工夫して行くことを重視しています(図4を参照のこと)。

z4

すなわち、ボール運動・球技に独自な動きかた、つまり独特な動く感じを、コツ(技術力:私は動ける)とカン(戦術力:私は応じられる)の2側面の絡み合いとしてとらえ、それを子どもに身につけさせようとする意図があります。
 図5は、ゲームの教材づくりの事例です(図5を参照のこと)。

z5

その際、基礎ゲームは、目標とするゲームの様々な局面に特徴的であり、しかも戦術に力点をおいた動きの基本となる形態が明示されることが必要となります。この基礎ゲームでは、セットや速攻での継続局面において、ボールを持たない者が動こうとする時に、どういう戦術的な意図をもてば良いのかをゲームの中で習得することが目指されます。つまりそれは3つあり、プレイアブル(プレーできる状態)であること、プレイアブルになること、プレイアブルにさせることとルント(Lund,A.,佐藤訳,1996)は述べています。

また、運動の練習の系統性という側面で、ドリルゲームを選択した場合は、その対象となる運動は、単にゲーム形式にして動かせばよいのではなく、ゲームの機能としてとらえる必要があります。すなわち運動の学習系統が、ゲームの学習系統を支援し、ゲームを発展させる可能性を開くように、運動が行われる練習形態には、ゲームに典型的に現れる諸局面が段階的に設定されていなければなりません。

ホーム