5 各授業単元におけるメインゲームの教材づくりの仕方と問題点について

授業提案は本研究集会の目玉であり、研究集会の参加者の目の前で、子どもが実際に動くので、模擬授業などとは違って、子どもの実態やゲームの様相を直に観て取ることができます。また、一般発表ともいえる研究・実践報告とは違って、専門委員会の各委員が関係しているものが多く、指導要領に準拠しつつも、教具とともに教材づくりにおいて、教師自らの工夫がみられます。しかも一般発表では、ハンドボールの教材価値を明らかにしようとする傾向から、その系統的指導法を明らかにしようとする傾向へと徐々に変化してきていますが、授業提案では、やはり提案というだけあって、当初から学習内容をある程度押さえた上で、それを習得させようとする教材づくりを模索したものが多いと思います。

z4ここでは特に図4で示した突破型(ゴール型)教材としてのハンドボールの系統的指導の方向性(案)という視点から、各メインゲームの教材づくりの仕方と問題点を明らかにしたいと思います。表11〜13は、これまで27件あった授業提案において、各授業単元で目指されるメインゲームの教材づくりの仕方について、学年毎にまとめた表です(表11、表11−2、表12、表13を参照のこと)。高学年の提案が12件、中学年の提案が13件、低学年の提案が1件でした。

h12 h11-⒉ h12 h13

z5まず、図5に基づいて、メインゲームのルール条件を、Ⅰ物的条件(①コート・ゴール、②ゴール エリア、③ボール、④時間、⑤得点、⑥チーム、つまりプレーヤー数)とⅡ行為的条件(ゲームの行為、つまりプレーの仕方の制限)の側面から整理し、ルール条件と学習内容との関係が分かるように整理してみました(図5を参照のこと)。

 

 ⑴高学年のメインゲーム

 高学年のほとんどのメインゲームは、ゴールキーパーを含めた4人ないし5人制を中心とした予備ゲームに位置づけられます。ほぼ正規に近いルールを持った目標ゲームをメインゲームにしている実践はありませんでした。予備ゲームでは、コートやゴール、およびボールについては簡易なものが工夫されていますが、正規のものを大きく変更したものはありません。ゲームの行為についても、ステップ数の制限や緩和とドリブルの制限が中心で、身体接触をタッチに替えたものが2件です。したがって、予備ゲームであるとはいえ、正規のゲームと似ている様相を反映した典型的なゲームと考えられるものがほとんどです。

そしてこのようなメインゲームでは、戦術的な学習内容が明瞭であり、鵜飼実践の「速攻」、「壁パス」、森田実践の「空間の見方、使い方を知る」、「パス後の移動」、「全体のバランスを考えてポジションをとる」、寺前実践の「攻守の形」、「2対1の練習を生かす」があげられます。

また、高学年のメインゲームの中には、どうしても子どもに身につけさせたいゲームの様相を想定した誇張ゲームが幾つかあります。ゴール付近のコート空間を誇張した京極実践、そしてゴールエリアを工夫した筒井実践、清水実践、関実践、山崎実践があげられ、いずれも得点につながるための特殊なゾーンを設けています。

特に、山崎実践では、工作したキーパーを付けてゴールを工夫しています。さらに、戦術的な学習内容が明瞭なものとして、京極の「ダンゴ状態の解消」、「プレーの広がり」、「横のパスとゆざぶり」、清水実践の「ゴール型に共通する中盤局面のボール運びでのボールを持たない子の動きかたの判断を支える技能や知識・理解」、内田実践の「シュートチャンスを生かすためのプレーの判断と選択」、「ワンドリブルを生かす」、関実践の「動きかながらのパスキャッチ」、「フリーの味方にパス」、「ボール保持者と自分との間に守りを入れない」、山崎実践の「オープンスペースやフリーエリアに走り込んでパスを受けてシュート」、「そこで仲間にパスをつなげる」があげられます。

以上、高学年のメインゲームは、ほぼ正規に近いルール条件で行う目標ゲームの下位教材に当たると考えて良いでしょう。もっと正規のゲームの構造的特性をとらえた上で、ほぼ正規に近い6人制の目標ゲームを教材化しても良いと思います。また、ここでの予備ゲームは目標ゲームへの架橋となるため、多くの学習内容が慎重に考えられています。しかし、教材用1号球の開発とボール操作の容易さという点で、いずれも中学年でも行える内容と思われます。

⑵中学年と低学年のメインゲーム

中学年のメインゲームは、指導要領の内容に照らして考えると、すべて「簡易ゲーム」といえます。また、低学年向けの「ボール投げ遊び」とも考えられる前田実践を除いて、すべて予備ゲームに位置づき、いわゆるゴールタイプのゲームと的当てタイプのゲームに分かれます。

ゴールタイプは、高学年の予備ゲームに近く、ゴールキーパーを含めた4人制の典型的なゲームといえます。関実践、京極実践、下山・池田実践、館山・田川実践、山本実践があげられます。他は、ゴールエリアの形を変えています。また的当てタイプには、泉実践、小島実践、信原実践があげられ、下山・池田実践では、キーパーを入れること以外に、ゴールの角に的も付けています。特に小岩井実践では、ゴールの設置の仕方、ゴールエリアの形に特徴がみられます。

また、ゲームの行為については、ステップ数の制限や緩和とドリブルの制限や得点の仕方が中心で、身体接触やタックルを禁止しているものが3件、タッチが1件です。また、学習内容については、前田実践では、「目標投げ」や「遠投」などの能力の習得が目指され、他は、主に戦術・技術的な学習内容を明瞭にしています。

すなわち、木谷実践では、「突破(ゴール)型に共通のボールを持たない動き(プレイアブルな動き)」、「投・捕の技能」、もう1件の実践ではより具体的に、「相手のいない場所に動いてパスのボールを捕る」、「相手のいない場所に動いた仲間にパス」。京極実践では、「プレイアブル」として「敵のいない場所に走り込む」、「パスを受けてシュート」、浅川実践でも、「ゴール型に共通するボールを持たない時の動きかた(広がりを持つ、スペースに動く、ゴール方向を意識する)」と明示されています。

一方、下山・池田、館山・田川実践、山本実践、小岩井実践では、まずもって、「パス、キャッチ、シュートについて上手になるためのポイント」、「シュートができる」など、確実な技術の習得が目指されています。また、信原実践では、的などを設けることによって、「投能力」の向上とともに、「戦術学習(ボール保持、非保持の動きかた)を行う」とされ、小岩井実践では、「オーバースロー」、「ボールを止める、キャッチ」、「パスをもらえる位置に動く」、「ゴール前でノーマークになったらシュート」と技術・戦術的な学習内容が明示されています。

以上、中学年のメインゲームは、ゴールタイプの典型的なゲームであれば、プレーヤー数を除いて、高学年の予備ゲームと大きく変わっているものはありません。中学年のメインゲームは、いずれも高学年で行うべき目標ゲームの下位教材として容易に導入することができると思います。ただし中学年の学習内容をみると、中学年で技術的なものを確実に身につけさせた後で、戦術的な学習内容の習得に向かわせようとする意図が明瞭なのは良いと思います。技術の習得なしに、ゲームは成立しないと思うからです。

次に、低学年のメインゲームは、1件のみです。清水実践は、正しい投・捕の技能を身につけさせるためのドッジボールを提案していますが、ここでいう基礎ゲームには位置づけられません。低学年の「ボール投げ遊び」の実践例は、決して多くはありません。ハンドボールを目指した「攻めと守りのあるゲーム」の工夫なども含め、低学年の教材づくりは難しいのでしょうか。運動発達論的にみると、6〜8歳の子どもの投・捕の発達情況は、きわめて多様であり、走・跳よりまだ不完全さを示します。

しかしそこでは、個人差や性差が関係するが、ボールを取り扱う経験によって大きく左右されるといわれています。そういう意味で、特に投・捕については、ハンドボールが十分その責任を担うことができると思います。そこでは、ハンドボールを目指した授業の中で、どのような経験を子どもにさせるのかは重要になります。したがって、低学年から中学年にかけて、基本的な投と捕の運動と、それらの組合せを中心とした学習ステップを創造し、さらにそれらの運動をゲームの基本的な情況と結びつけた基礎ゲームをたくさん開発して行く必要があります。

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図6は力強いオーバーハンドスロー(シュラークスロー)を習得するために、筆者が創作したトルネードスローの学習ステップの応用例です(図6を参照のこと)。そしてこれを基礎ゲームに結びつけて行く視点が考えられます。

 

 ⑶新たな方向性を目指して

特に中学年と高学年の学習内容をみてみましょう。

学習内容が指導要領に準拠しているため、ゴール型としてのハンドボールの教材解釈となり、身につけるべき動きかたは、ゴールへのシュート、もしくはゴール付近でのボールを持たない動きかたとボールの操作に収斂されています。教材づくりの工夫も、ゴールとゴールエリアのゴール付近のラインの変更が中心です。そのため、コートも全体的に短めに使われ、コートの中盤を使って、仲間と走破するような動きを想定していないものが多いと思います(小さな体育館で行う授業提案が多いためかもしれません)。

コート中盤の局面を意識した提案は、中学年での清水実践だけです。また、コート全体に関わったボールを持たない者の戦術的な意図(プレイアブル)に着眼したものは、中学年の木谷実践と京極実践だけです。全体として、個人や集団の大きな動きの流れを発生させようとする教材が少ないように思われます。

中学年から高学年にかけては、走りながらのプレーやロングパスを覚えてきますので、伸び伸びと走って速攻をさせる方向性を考えるのが良いと思います。ハンドボールの構造特性から考えると、コートについては縦長であり、ゴールエリアはプレーするコートから明瞭に区切られ、そこを子どもが目指すように手招いているかのようです。

既存のコートを使っても、そのままの形で十分場づくりの工夫ができます。すなわち、学年の実態に応じて、速攻の動きの習得は縦長コートで、セットの動きの習得は幅のあるコートで、という視点からコートをグリッド化し、併せてゴール と行為的条件も工夫すると、様々な動きを引き出せるのではないかと思います。

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図7は、2本の縦線を引いただけのグリッド化の例です(図7を参照のこと)。筆者もこの視点から、「タッチハンドボール」、「タッチダウンゲーム」、「カウンターアタックゲーム」、「オールアタックゲーム」を系統的に創作してきました(2010)。


ここで、わが国における指導要領の攻撃を中心にした内容とはかなり異なる方向で、昨今改訂されたある競技団体のカリキュラムを紹介したいと思います。

それは、2003年、ドイツハンドボール連盟で作成された子どものハンドボールのための指導教程です。主な対象と内容は、Eジュニア(12歳まで)のマンツーマンプレーとDジュニア(13歳から14歳まで)の攻撃的な守りです!

これは我々委員会のメンバーにとっては衝撃的な内容でした。すぐに出版社から版権を取得し、委員会で翻訳して出版しました(表14を参照のこと)。

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詳細は訳本をご覧下になっていただきたいと思いますが、図8はゲーム形態の一例です(図8を参照のこと)。

ボールも持つ、持たないにかかわらず、すべての者がマンツーマン(1対1)を意識することによって、独自の雰囲気が醸し出されるようになっています。

まずもって、戦術的な学習内容として、マンツーマンを導入することによって切迫したゲーム情況を創出し、攻防両面にとって重要な全身感覚といったもの、例えば、カンの領域にある気配感や伸長感、そして情況把握の感覚が養えるように工夫されています。

指導要領の内容変遷の流れとは逆行するかもしれませんが、このような知見を、高学年のメインゲームの行為的条件か、もしくは学習内容に直接導入し、教材づくりに生かして行くことは必要不可欠だと思います。

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