3投げかたを伝える

「投げかた」とは、投能力のことではない。ボールを投げるという「運動感覚能力として身につけた私の動きかた⑨」のことである。それは、「分割できない運動メロディーをもった統一的な運動感覚図式⑩」のことである。したがって、私が投げるという、今ここの運動認識に基づいて解釈しなければならない。さらにそれは、私は投げられる(対私的な動きかた)と私は応じられる(情況的な動きかた)という運動意識の二側面をもつ⑪。ボール運動では後者が重要となるが、その前提となるのは前者であることを見落としてはならない。さらに各人がうまく投げられるようになるためには、投げかたの要領としてのコツ⑫をつかまなければならない。そしてコツは、人から人に伝わるなかで、それぞれの私のコツから共通項が抽出されると、共通感覚に適合した我々のコツとなる。

我々は、投げかたのコツを覚えようとする初心者や、それを根本から改善したいと思っている者には、近距離からの目標投げとして、立った状態でのショルダースローを目指して運動修正を促してきた。わが国では、このスローの構造特性は、体系的に明らかにされてはいない。ドイツにおけるボール運動の一般理論では、このスローは、高い打点からの「シュラークスロー」(Schlagwurf)に相当し、多彩なシュートやパスのための基礎的、可変的な投法とされる⑬。したがってそれは、目標がどこにあっても、緩急をつけながら正確に投げる手段として欠かせないスローといえる。さらにそれは非循環運動であり、局面構造の視点⑭から、準備、主要、終末という三つの局面をもつ。以前よりこの運動の特徴は、「シュラーク」の語が意味するように、主要局面での打つ動作に似た腕の急激な振り⑮や、からだの弓なりの反り⑯にあるとされてきた。

しかし、生き生きした投げかたに明瞭な区分線を引いて考えることはできない。準備局面から主要局面への移行場面のなかでは、「感じの呼び込み」や「感じ取り」などの運動感覚能力の不可欠さがすでに指摘されているからである⑰。そこで差し当りこの3局面を、「投げようとする」、「投げる」、「投げた」という運動感覚の意識の問題として考えてみる。そうすると前述した運動の特徴は、概念や形ではなく、勢いをつけるためにからだを鞭のようにして「投げる」という重要な意味をもつことになる。

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ここではさらに、からだを捻り戻す感じを強調した投げかたを提示したい。まず筆者が、授業などを通じて関わってきた附属小学校4年生、A子の力動的な投げかたを画像から読み取ってほしい(画像1・2、片手で保持できる教材用1号球を使用)。我々が共有してきたコツを、この典型例によって示してみよう。我々は、目標を見定めて、右手で強く「投げようとする」場合は、左足を踏み出すと同時に、左肩が投方向に向くように、からだ全体を右側に捻ってボールを後方に高く引き上げ、胴体を弓なりに反らせる感じで構えを大きくつくる。このようにして「投げる」感じを呼び込んでおくことが「投げる」きっかけと勢いを生む。こうして、右脚から左脚へと腰部を前方に運びながら、からだ全体を捻り戻す感じで、鞭打つようにボールに勢いを伝えていく。したがって、実際にこのようなショルダースローの投げかたを個人に覚えさせようとする場合は、とりわけ「私のコツ創発能力」として、私の対私的な運動感覚図式のなかで、運動メロディーに三つの「まとまった力動ゲシユタルトをもつ局面を自ら構成する運動感覚能力」(局面化能力)を学習者に確認する必要がある⑱。また、私の運動メロディーのなかで、「一つの力点化と制動化の鋭い交換が志向され、その勢いを次に移すことができる能力性」、それも運動を感覚する身体とボールとの関係において伝導

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