1はじめに

編集部からいただいたテーマは、ボール運動 の指導や評価のあり方など、広範にわたる問題 を含んでいる。ここでは「ボール運動」の語の意味を、ボールを用いたゲームとしてとらえ、 まずこのテーマを、筆者に身近なハンドボール の指導体験から考えてみる。

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筆者は現在、授業はもとより、男女の部活動 とも関わっているが、そこで観察される学生た ちの様々な勅さが、何げない練習の工夫や、ちょっとした示範と言葉かけによって一気に変化し、 学生にやる気を起こさせるということを経験している。まずもって学生自身は、練習のなかで 動くことができ、そしてゲーム情況に応じるこ とができるという意識が生まれることで、この種目が好きになっていく。ゲームでうまく使えない苦手な運動を練習対象にした場合はなおさらのことである。

ところが一般に、ボール運動の授業に共通した大きな問題点は、指導者がゲームに内在する遊戯性を強調するだけで、個々の動きそのものに関心を向けなくても、学習者はそれなりにゲームを楽しんでいるという事態が生じてしまうことである。これが意外と落し穴になっている。ゲームの様相を発展させようとする場合、個々の運動問題が必ず浮上してくるが、指導者の側でそれを見抜けないと、あとで運動嫌いにさせ てしまうことがある。 

そこで本稿では、ボール運動を得意にさせるための指導上の基礎基本とは何かを明らかにしようと思う。そのために、筆者の投の指導理論を提示する。そしてこのテーマについて、運動感覚の世界にある「私の運動」を他者に伝えようとする運動伝承論の立場①から、実際の指導の例証を挙げながら考えてみたい。

2 投の指導の実践・研究  

筆者と学生たちとのあいだで、ある練習の成果が確認されるたびに、共有され、蓄積されてきた経験財が様々な場で生かされている。例えば、高等学校の授業における投の修正法②は、部活動での初心者指導の体験の賜物である。この練習法は、「トルネード投げ」の名称で共有され、小学校体育の典型教材として紹介された③。これは秋田大学附属小学校のハンドボールの授業のなかで継続的に研究されている④。

昨今、子どもの投能力の低下傾向を把握した上で、投能力の向上を目指した実践や実証的な研究⑤⑥⑦⑧が散見されるようになったが、我々の実践はこのような試みとは異なる。

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