フェイントする場合、どのようなことに注意すればよいか?

ハンドボールの技術は一対一に始まって一対一に終わるといっても過言ではありません。ゲームでは、誰れかが一対一を破れば、誰れかがノーマークになることができるからです。フェイントは、一対一を破る技術の一つとして重要な役割を持っています。フェイントを練習する場合、考えておかなければならない注意点をあげてみますと次のようになります。

(1)限定されたゾーン内で一対一を破る

限定されたゾーン内で一対一を破るということは、自分を守っている防御者の防御ゾーン内で抜くということです。無制限に広いコートを使って一対一を破るのは、それほど難しいことではありませんが、ゲームではそのようなフェイントは通用しないのです。たとえば1−5のゾーンディフェンスに対してワンポストで攻めていたとします。写真Ⅰの①のように右のフローターが四五度のディフェンスに対応する場面を考えてみますと、右四五度のディフェンスの守備ゾーンは斜線の部分となります。攻撃は、この斜線のゾーン内で相手を抜けば、ディフェンスのサイドやセンターからのフォローが遠く、しかもフォローすれば自分の守備ゾーンをノーマークにしなければならなくなります。

斜線ゾーンで抜けば、ノーマークでシュートを打てるか、味方のサイドかポストをノーマークにすることができます(写真Ⅰの①~⑧)。ところが斜線ゾーン内で抜くことができなければ、ノーマークになったり味方をノーマークにしたりすることは難しくなります。写真①~③の矢印のような動きをしても、シュートを打つには、よい体勢にはなりません。その上サイドやポストのディフェンスは、自分の防御ゾーン内でフォローすることができるので、ノーマークゾーンを作らずに守ることができます。

3-8p1

(2)ワンタイミングで抜くこと

練習で、一対一などのフェイントの練習をした場合、ゾーンも時間も無制限といった場合が少なくありません、実際のゲームでは、ゾーンも時間も限られたものとなっており、それを越えた場合には、成功は難しいものとなります。時間の問題もその点で重要です。例えば、ある瞬間に孤立したディフェンスとの間に一対一の状況ができ、抜けば完全なノーマークといった場合に、抜くのに二タイミングも三タイミングもかかっていたのでは、他のディフェンスにフォローに来る時間的余裕を与えることになり、一対一ではなくなって一対三ということにもなりかねないからです。

(3)左右あるいは上下に相手を動かして抜く

限定されたゾーン内で抜くためには、抜こうとする以外の方向に相手を動かしたり、腰を浮かせるなどして、容易に自分が抜こうとする方向に動けない状態をつくることが大切です。方向変換する場合は、ポイントを瞬間的にディフェンスの正面よりずらして行い、その方向にディフェンスがくれば逆方向へ進み、ディフェンスが来なければ、そのポイントから真すぐ切り込みます。方向変換するポイントに合わせてシュートモーションやパスモーションのフェイク動作をつけ加えれば、より効果が期待できます(写真Ⅰの①から②)。

(4)方向変換する間合い

相手を抜くために方向を変える瞬間での間合いは、ちょうど抜きやすい距離があります。近すぎるとディフェンスのふところに入ってしまうし、遠すぎると抜く方向をディフェンスに見られて失敗します。実験の結果では、一・五メートルくらいが最も抜きやすい距離です。抜きやすい間合いをつくろうと思ってもディフェンスは静止しているわけではないので、ディフェンスの状況によって方向変換する瞬間の足運びを変えたり、ジャンプストップする場合のジャンプの距離を調節したり、ディフェンスの中心からずれて方向変換するなどしてよい間合いをつくらなければなりません。要はディフェンスのいかなるつめに対しても適切な間合いをつくることが必要で、そのためには、いつでも、いろんな方法での方向変換ができるフットワークカが必要です(写真Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)。

3-8p2

(5)方向変換の方向判断

どちらを抜くかその判断を誤まるとフェイントは成功しません。そのため方向変換をするまでにディフェンスの状況をよくみておく必要があります。たとえば、どちらの足を前に出して構えているか、間合いはどうであるか、下がろうとしているのか前につめて当たろうとしているのかなどです。

方向の判断は余裕のある時などは、最初から抜く方向を決めてその方向に抜きやすい動作で対応する場合が多いのですが、ゲームでは相手の動きを常に予想できるとは限らないので、練習によって瞬間瞬間に正しい判断ができるようにしておかなければなりません。

(6)方向変換の技術

方向変換の仕方は大きく分けてジャンプストップによるものと、ストライドストップによるものとがあります。抜いていくパターンにはこれら二つの方向変換の技術とその変形されたものか、シュートやパスフェイントをともなった方向変換です。

写真Ⅱはジャンプストップとジャンプによる方向変換、写真Ⅲはストライドストップから普通のステップによって抜いていくもの、写真Ⅳはストライドストップとジャンプによる方向変換です。

方向変換の技術は、相手との間合いによって使いこなさなければなりませんので、瞬間瞬間に正しいフットワークが使いこなせる必要があります。

(7)ドリブルの技術

ドリブルで左に抜く場合には左手で、右は右手でドリブルするのが基本です。ディフェンスからボールを守りながらドリブルするためには、方向変換しながらドリブルしない側の肩をディフェンスに向ければカットされることがないし、抜けない時でも味方にパスができ安全です(写真Ⅰの③~⑥)。パスやシュートモーションから抜く時は、どちらを抜くにしてもボールを持っている手でドリブルしていくことがあります。

(8)スピードとパワー

フェイントは、反応時間や動作時間の利を用いた技術なので、ディフェンスを上まわるスピードがなければ、せっかくディフェンスに動作のおくれを作り出しても追いつかれて成功しません。スピードがあるということは、フェイントの絶対的な条件になります。スピードというのは走るスピードはもちろんですが、ドリブルしたり方向変換したりする動作のきれの速さも含まれます。スピードのある走りや動きの中でストップしたり方向変換するためには、スピードを殺したり、スピードを瞬間的に得る脚パワーや全身パワーがなければできません。

フェイントが成功するためには、これらの要素がうまくかみ合っていなければなりません。相手を抜く技術を持っ
てはじめて一人前のプレーヤーといえます。

(大西)

オフェンス技術目次へ 次ページへ