近年報告されたドイツのトレーニング方法や,選手発掘の観点として,生理学的,遺伝学的観点からの知識が十分に取り入れてあったことは,このようなことを十分理解したうえで,選手発掘やトレーニングにおいては暦年齢ではなく,十分なデータのもとで判断して実施されていることに驚かされたものである。

3.体力トレーニンクと性差 

このトレーニングにおける性差を考える場合,ここでは特に女子に限定し,女子の場合の体力を,男子との比較から特徴を取り上げることで進めていきたい。

近年あらゆるスポーツ種目における女子の進出はめざましいものがある。例えば,あれほど過酷だと思われるマラソンにおいても女子の記録はめざましく向上し,男子をしのぐほどになった。また,極端な例としては,ソウルオリンピック女子100m走のジョイナー(Joyner)の記録は10秒54であり,これはこの大会の参加男子選手(予選を含め)101名の中でも39位に相当する記録であった。日本国内ではこれに匹敵する選手は若干名である。この傾向はあらゆるスポーツでみられる現象であり,ハンドボールでも,ソウルにおける韓国チームの女子選手の持っている体力,テクニックなどすべての面において,これまで長い間男子特有と思われていた多くの概念を覆すものであった。 

しかし,だからといって女子も男子と同様のプログラムでトレーニングを行うというわけにはいかない。トレーニングにあたっては,次のような点を考慮して実施する必要がある。

(1)筋力トレーニングにおける対応

筋力トレーニングの負荷といった面は,最も男女の性差が著しいものであるが,絶対筋力からみれば男女間での有為な差がないことはよく知られている。福永らの研究では,思春期前後の年代でそのトレーニング効果を比較した場合,女性のほうが高い増加率を示している。また,へツティンガーは,女性は年齢によるトレーニング効果に大きな差はないが,男性は思春期以後のそのトレーニング効果が急速に大きくなると報告している。したがって,女性の筋力トレーニングは,男性よりも比較的早い時期から開始することが,高いトレーニング効果が得られると考えられる。

(2)筋持久力トレーニングにおける対応 

これに関しては,加賀谷の報告によれば,男女それぞれ最大筋力の3分の1の負荷で,ある一定期間トレーニングを実施した結果,有意な差がみられなかった。これは,筋持久力を相対的負荷法によって評価した場合,男女間に筋持久力の差がないことを示すことになる。つまり,トレーニングにあたっては,女性としての特別な筋持久力トレーニングへの配慮はいらないということになる。

(3)全身持久力のトレーニングにおける対応

これに関しては,男女の比較はいろいろな見方がある。それは,ことに女性の場合は,競技者といえども,男性に比べてトレーニングを始める以前の一般生活において活動量は比較的少ない場合が多く,その出発レベルが低いためと思われる。今日までのいろいろな研究からは,この全身持久力のトレーニングにおいても,特に男女の差はみられないとされている。しかし,注目したいのは,持久性運動における女性のエネルギーサイクルにみられる特色である。これはフルマラソンの前後の血液性状を調べたものであるが,その男女差において,持久性運動では女性は男性と比べて,そ

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