大西武三

1,ゴールキーパーの技術と指導

GKの指導は指導者が専門的にやった経験がない限り、練習はG Kまかせと言ったことが多いので はないでしょうか。非常に研ぎ澄まされた感覚が必要なため、その細部に渡る技術面やコツを指導するのが非常に難しいものである。

GKの試合における重要性は非 常に大きいものがある。コートプ レイヤーの全体的な競技力にそれほど差がない場合は、GKの技術・ 戦術的能力がものをいう。強いチ ームには必ず優秀なGKがいるもので、その存在によって1試合5 〜6点は確実に違ってくる。

また 優秀なGKでシュート練習を積んだプレイヤーは試合でプレッシャ ーを感じることなくシュートを打つことが出来る。反対に試合で優 秀なGKに出会ったとき、入るはずのシュートが入らず、益々プレッシャーを感じ、ことごとくシュ ートを外してしまう例も珍しくな い。

又、シュート阻止だけでなく、ボール処理後の速攻へのパスアウ トの技能は、速攻のチャンスを倍 加させ一瞬にして得点を重ねていくことが出来る。優秀なGKを持 てば「守って速攻」という最も理想的なゲーム運びをすることが 出来る。

2 ゴールキーパーの条件

GKには各種の能力が必要であ るがとりわけ身体的条件として身 長が高いこと、俊敏性、パワー、 調整力に優れていることが必要であり、精神的条件としては、ボー ルに恐怖心を持たないことやシュ ートの予測能力に優れていること などが挙げられる。

GKを選ぶとき、その役割の重要性故に最も運 動能力の優れている人をGKにする指導者がおられる。もっとななことである。一番大切なことは、一度実際にやらせてみて確かめることである。何も教えていなくても、初めからボールを恐がらず、タイミングや方向に対する勘の鋭 い生徒がいるものである。この様 な生徒がGKに先天的に向いてい るのである。IHF/CCMメンバーである シュペートは、優れたGKの持つべ き条件として表1に示している。

 

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3 セービング動作習得の段階練習

シュートを阻止するのがGKの 最も大きな仕事であるが、その技 術を習得していく道筋は次のとおりである。

どんな技術も動作(テクニック) を習得することと、それを使いこ なすこと(タクティック,戦術) が必要である。  

GKのセービングの習得は、先ず中央からのシュートに対する動 作を習得することから始める。

①各コーナーに対する基本的な動作(テクニック)の習得

ボールを使用しないで正しい動 作を繰り返し習得する。動作に必 要な体力、柔軟性は別途練習しておく。

②タイミング判断してのセービング

①で習得したテクニックを実際 のボールに対して行う。動作開始 のタイミングを合わせることが必 要である。動作の開始を出来るだけ溜めて俊敏な動作で行う。シュ ートは方向を決めて行う。

慣れてくれば、同じコーナーを シュートするなかでタイミングや シュート動作を変化させて行う。 GKはシュートフォームから方向 とタイミングを読む能力を養いな がら動作を習得する。

③方向とタイミングを判断してのセービング

GKの方向とタイミングの判断 能力を養いながらセービングの練 習を行うのであるが、シューター の打つ方向を自由にしないで制約を加え、徐々に制約を取っていく。

初めは2方向から始める。下方向 のいずれかをシュートし、GKは 方向・タイミングを判断してセー ブする。

次いで上方向のいずれか、 対角のいずれかのようにしていく。

2方向が出来るようになれば、3 方向選択、4方向選択、股下等を 加えた5方向選択など選択肢を多 くしていく。これは GKの方向判 断を徐々に養って行くための一つ の方策である。  

以上が基本的なテクニックとそ れを使ってのキーピングの実際を 習得する手順である。同様にして 各ポジションでのセービングを習 得する。

4 セービング動作のポイント

 本年卒業した筑波大学のGK栗 山君が卒業論文でGKの動作につ いて実験研究しましたが、その結 論として次のように述べています。

①「可動域(動きの大きさ)」「ス ピード」は体力的条件や形態的条 件の他に「重心の移動」の仕方と関連がある。

②「重心の移動」を有効に使うには表2の要素がある。

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5 ロングシュートに対するキーピングテクニック

WORLD HANDBALL MAGAZINEに GKのトレーニングとしてIHF /CCMメンバーのデートリッヒ・ シュペート氏の記事が掲載されてい たが、以下はスペートが1993 年世界男子ハンドボール選手権大 会を分析してロングシュートのセービングテクニックを述べたものである。

A 基本的な動きのパターン:ボールの逆側の足で跳ぶ

シューターの狙いに関係なく(ボ ールの高い、低い、中間)すべてのGKは、基本的な動きのパターンを習得しなければならない。

図 1−1はGKが右上コーナーに放たれたボールをセーブしている典型的な技術を示した。

○技術的特徴

・右上コーナーへの跳躍によってボールをセーブするとき、ボールの反対側の足である左足で、基本位置からコーナーへ跳ぶ(図1の 2.3)。

・ボールの側の足は(図1の右足) 振り出しとゴールを守る 補助とし て使う。

・忘れてならない重要なことは、 跳ぶ前の中間のステップ(つぎ足) は、ブローレスを避けるためにで きる限り避けるべきである。

○長所

・この動きのパターンは、ほとん どすべての防御動作に適用され、 習得することは容易である。

・身体の中心をボール方向へ持っていくようにする。

・ステップジャンプ(注‥ステッ プを踏んでからジャンプするので なく、図のようなジャンプの仕方をステップジャンプという)の技術は、すべての防御動作に適している(高 い、中間、低いコースの シュートに対して)。

○短所

ジャンプカに欠けているGKは、 基本位置からの跳躍によって手で対角の上コーナーに到達することは困難である。ステップジャンプ の技術すべてには、重要な利点が あり、初心者から進んで基本技術 として練習すべきである

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B 基本動作パターン:ボール側の足で跳ぶ

 図2は、連続動作を示している。

○技術的特徴

・ボール側の足へ重心を移動する  (№2、3)

・セービングのためにゴール上コ ーナーヘボール側の足で跳 ぶ(№ 3)。

○長所

・各コーナーへの動作は、最短距 離で行える。

・両足が地面についたまま跳躍に移れる。GKはそれたボール にさえも反応出来るようになる。

○短所

・このセービング技術は、調整す るのが難しい。

・低いボールのセーブには適さない

・GKのレパートリーが、このジ ャンプテクニックによって広 がりを持つ。ボールをセーブするための迅速な反応動作が 要求されてい る特別な状況では、ボール側の足で跳ぶこと の利点がある。

C 高いボールヘのセービング

・両手でのセービング

今日では、高いボールに対しての防御は、主に両手で行われる(図 1)。両手でセーブすることの利点は何かといえば、体幹をボール に持ってくることが出来るからである。またそうすれば、ゴールの上方における大きな範囲を守ることが出来る。大抵のスピードボールは、両手でセーブすることが必要とされる。

・片手でのセービング

トレーニング期間においてGK は、もちろん高いボールを片手で 防御することも練習しなければな らない。図3はボール側の足で跳 び、片手でのセーブを示している。

○長所

・大きな範囲を防御出来る。

・急速な防御動作が可能である。

○短所

・ゴールのコーナーは、全身を持 っていって防御することが 出来な い(図3)。

・GKには、優れた調整力が絶対 不可欠である。

 優れたGKは、切迫した状況や 反応出来ないとき以外は、片手によるセービングを使用しない。

D 中間のボールに対してのセービング

中間の高さのボールは、図4で 見られるボールの反対側の足で跳 ぶ動作パターンか、もしくはボー ル側の足で跳ぶ動作パターンが適 用される。防御動作をコントロー ルして、中間のボールを両手でセーブすることが可能である。その 利点も明らかである。ゴールのコ ーナーは、全身によって守らなければならない!

E 低いボールに対してのセービング

一般に低いボールに対しては、 右記のステップジャンプ技術を適用することによってのみセーブすることが出来る。ボールをセーブ するために2つの異なった技術が可能である。

1手と足によるセーブ(図5)。

○技術的特徴

・GKが基本位置からステップジ ャンプでゴール下コーナーに達す る(№1〜3)。

・右足を振り出し、右腕は下方向に動かす(№3)。

・全身を右コーナーへ動かす。

・バウンドボールしたときの大き な得点エリアである下コーナーは、手足でセーブする。

2.ハードル選手のような姿勢まで動作する(図6)

○技術的特徴

・通常振り出された足は、下コー ナーに向かって蹴り出される(№ 1、2)。

・ボールは、ハードル選手のような姿勢までGKが移動することによってセーブする。

・ボール側の腕は、振り出される足の上にあり、バウンドボールに対して付加的な防御の役目を果たす。 GKは、ボールに対してアクティブに動作する。決して屈しないこと。

二つの防御技術のうちどちらを 使うかは、GKの身長や彼のおかれた状況(ボールへの距離、防御 技術遂行に必要とされる時間等) に依る。優れたGKは、双方の技 術を使い分ける能力を持つべきで ある。

F GKのための行動パターン

・もし可能であれば、いつも防御 動作において体幹をボールに移動 する。

・出来る限りゴールの大きなエリ アを上体、手、振り出した足で防 御する。

・時間のロスを防ぐために、準備 動作に時間を費やさないこと。

・出来るだけつぎ足をしないこと。

・身長の低い者は、アクティブに ジャンプ動作をする。

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