大西武三

前回は「技術は習慣化するために、技 術の習得に当たっては悪い癖をつけない ように注意することが必要」であること を述べました。その例をジャンプシュー トにとって説明を始めた訳ですが、今回 はその続きから始めたい。

ジャンプシュートのジャンプ  

ジャンプシュートのジャンプは、その 跳ぶ方向から見ると、  1 高く跳ぶとき  2 前方遠くに跳ぶとき  3 斜め方向に跳ぶとき がある。陸上競技でも高跳びと幅跳びが あり、同じ跳ぶといっても技術が少し違 っている。ハンドボールのゲームを見て いても、その状況によってディフェンス やゴールキーパーを外すために高跳びのように高く跳んだり、幅跳びのように遠くに跳んだりする。ハンドボールではボ ールをもって跳び、しかも投げる動作と 連動しなければならないので、初心者に とっては上手に跳ぶのは易しいことでは ない。  

セットオフェンスでは、サイドやフロ ーターは高く跳ぶことが要求される場面 が多いが、プレイヤーにとっては遠くに 跳ぶより「高く跳ぶ」のが苦手な者が多 いようである。それだけに、練習が必要 であるということである。

カンジェオン選手のジャンププレイ  

ちょっと話は反れるが、皆さんもご存 じの韓国のカンジェオン選手がいる。ソ ウルオリンピックの銀メダルの立役者の 左利きのフローターである。現在はスイ スのクラブチームで活躍しているという ことであるが、私は1991年広島でのバルセ ロナオリンピック予選を思い出す。今で もそのプレイは強烈な印象を持って、未 だ私の頭から離れずにいる。  

写真はこの時のプレイである。技術、 戦術、体力と、これほど見事に3拍子揃 った選手は、まず見当たらない。世界選抜チームにも選ばれているが、アジアが 生んだ選手として、国境を越えて手本としたいところである。写真のプレイはジ ャンプをしてパスをしたところであるが、 同じようなジャンプ動作が、あるときは パスを出し、あるときはシュートをするという具合で、各国の選手はこのプレイ に翻弄されたのであるが、日本もアジア 代表を賭けた決勝で、結局はカンジュオ ンのアシストやシュートによって突破さ れ、涙を飲まざるを得なかった。

kanjeon

カンジェオンの素晴らしさ

彼の素晴らしさは、何と言っても技術 の完成度の高さ、技術を試合の中で使い こなす戦術力の高さ、また技術のバックボーンとなる運動能力の高さであろう。 フェイント、パス、シュート等一つ一つ が素晴らしいのである。

この写真からも 見られるように、シュート時の動作を見 ても、その跳躍動作は利にかなった動作 をしている。  

シュート技術はハンドボールの技術の 中でも重要度は最も高いものの一つであ るが、成功させる要因の大部分は跳躍力 やボールスピードといった体力運動能力 的な面に依存しているように思われる。

ジャンプシュートで高く跳ぶためには  

高く跳ぶ人とそうでない人とでは、25 cm以上も跳躍高に差があることを前回話した。その重心の変化とフォームを示してみたが、この図の観察から、二者の間 の動作の違いを見つけることはたやすいことではない。

そこで今回、具体的に高 く跳ぶためにはどのようなことが必要な のかを述べてみたい。皆さんが指導者として現場に出られた時、是非選手の動作を観察してほしいと思います。

高く跳べる人の特徴  

ここでは一般的に見られる跳べる人と 跳べない人の差について述べてみたい。 昨年度、私の研究室で卒業論文を「ジャ ンプシュートにおける踏切動作に関する 研究」の題目で書いた田中保志君と野村 由加里さんの結論をも参考にしながら話 してみたい。

跳ぶとは  

図2はよく跳べる者の重心の動きを示 したものであるが、◎印で示した部分は 踏み込み脚の着地の瞬間から離地までの重心の動きである。時間にして約0.22 秒である。この間に水平の動きを上方への動きへと変換する訳である。上昇する 角度が大きいと、高跳び型となり、低い と幅跳び型となる。

3-z2

踏み込み脚は一種のバネ  

踏み込み脚である左足を大きく踏み出 し、踵から着地して速度を減速し、膝を曲げながら後半の上昇するための動きを準備している(図1番号8−11)。

着地 から跳び出しの動きは一種のバネの様な 動きをするが、前半部分はバネが縮んでいる状況である。バネが強く、よく縮めばそれだけ跳べることになる。 沈み込み助走の水平方向の動きを上方向に変えるのであるから、沈み込んで(重心を低 くして)踏み込むことが大切である。図 1−1~8までの助走の部分がそれに当たるが、踏み込み2歩前から重心を落して,踏み込み上方へ伸びるためのバネを作る準備をする。

3-z1

力強い踏み込み  

よく跳べる人は、最後の2歩を沈み込 んで跳躍動作に入る。沈み込むためには 最後の2歩を通常の走りのリズムから一 瞬スピードを落とし、力強く上から叩付 けるように踏み込むために、見ていても力動感がある。

踵から踏み込んでいる 踏込み時の左足の着地の瞬間を見てみ ると、沈み込みが出来ている人は踏み込 み足が着地する瞬間、踵から入っている (図2)。

これに対して、重心の高い人 は、爪先あるいは足裏が地面と並行に入 っている(図3)。男子は大体踵から踏 込んでいるが、女子は爪先から踏込む者 がかなりいる。これは、沈み込みが出来 ていない証拠といえる。

3-z3

後傾角  

沈み込みの出来ている人は、後傾角が ある (図2参照)。

後傾角は身体の後方 への傾きである。重心と踵を結ぶ線で表 わしているが、沈み込みの出来ている者 は後傾角が深い。  

後傾角が深いことは、重心が後方に残 っていることを示している。助走速度を 減速することによって脚のバネが縮み、 伸びようとする力をためることになる。 そして重心を後方に残すことによって、 バネの伸びる力を十分に生かして、上方への加速につなげることが出来る。

沈み込みが出来なければ  

沈み込みが出来なければ、前方に大き く踏込むことが出来ないので、減速する ことが出来ず(バネを縮めることが出来 ない)、踏切中間で重心が踏込み地点よ り前、または近くになってしまう。この ことにより、ただでさえ弱いバネの伸び ようとする力を、十分に上方への加速に 生かせないことになる。

脚が伸びるタイミング  

よく跳べる者は、脚と足首の伸びるタ イミングがよい。膝が伸び、足首への負 担がなくなろうとする時期に合わせて足 首がタイミングよく伸び始め、脚がー直 線になって空中へと跳び出していく。

跳 べない人は、膝が伸び切らない前に足首 伸展が始まる。膝が地面に対して大きな 力を出し、足首に力がかかっている時に足首が伸びようとするため、十分な力を地面に加えることが出来ない。

振り込み動作  

振り込み動作は、動作をより効果的に発揮するために行われるものである。主動作と同方向に行われる。反動動作とは運動の方向に行われるもので、投げる動 作ではバックスイングがそれに当たる。

振り込み動作は、大きく分けて脚自由脚 (振り上げ脚)、利き手、非利き手、体 幹の振り込み動作がある。  

この中で、振り込み動作として最も有 効と思われるのは、自由脚の振り込みで ある。

自由脚の振り込みが大きく速い  

ジャンプする脚に対して、反対の脚は 踏み切り脚の動きを助ける役目をし、 高さを跳ぶためには大切な役目である。

膝は腰の線より上まで上がる。この脚の 使い方の悪い人が多い。図4は自由脚の 振り込みを表わしたものであるが、自由 脚の振り込みに合わせて左右の手の振り込みが行われる。3-z4

自由脚の振り込みの弱い人  

図5は自由脚の振り込みが不十分で、 上方向への振り込みとしては弱いことを示している。たたみこむようにして振り 込み、膝頭も十分に上がっていない。

3-z5

自由脚の振り込みの方向  

自由脚の振り込みの方向は、その後に 起こる投げの動きと密接に関係している。 跳ぶためには前方に振り込むのが合理的であるが、腰を使って投げる場合は左腰 を投げる方向に向ける必要がある。

従っ て、自由脚の振り込みは斜め前方となる。 図1、図6、図5の者になるに従って腰をより開き、投げを優先して踏み込ん でいる。  

腰の開きは投げとか跳躍のどちらを優 先するかで決まってくるが、体力形態的 側面あるいはポールを握れるか否かも関 係してくる。  

ボールを握れない者は、腕の振り込み (バックスイング)を直線的に後方へ引かざるを得ない。ボールを握れない者に とっては図6のフォームが基本としてマ スターすべきものであろう。

3-z6

一連の動きから  

高く跳べる者の動作を見てみると、身体の各部が跳ぶに必要な動きをタイミン グよく大きな動きで行っていることであ る。踏み込み2歩前からの腰を落して力強く、しかもリズミカルな踏み込みと踏 み切りがある。下半身の動きは、高跳びの動きの様である。

また、バックスイン グを跳躍の踏み切り動作としてタイミン グよく上手に使っている。

指導上の注意  

高く跳ぶための指導上の注意点の一つ に、如何にして沈み込みの体勢を作らせ るかにあるが、これは助走において踏み 込む前の2歩を(右利きの人は右足)地 面の上からたたき込むようにして行わせ るとよい。

上からたたき込むように踏み 込むことによって右膝が曲がり、重心が 下がる。最後の2歩をタ・ターンと強く リズムをつけて跳ぶと、うまく行くようである。

跳躍力を高めるための練習  

ジャンプシュートの跳躍力を高めるた めには、跳躍するための合理的なフォー ムを知る必要があるので、いくつかのポ イントについてお話した訳です。どんな 技術もそうですが、先ず正しい動作を身 につけることが大切です。ゆっくりから 徐々に速くフォームを形作り、意識しないで も正しく動作できるまで繰り返す必要があります。その後に体力的な面を強化して力強く合理的な動きが出来るようにし ます。

具体的な練習方法等は「ハンドボ ール指導法教本」を参考にしてください。

戻る