大西武三

 第2回目であるが、今回も具体 的な内容に触れることが出来なかったことを先ずお詫びしたい。

‘93WC・ロシアチームの優勝に思う  

1992バルセロナオリンピッ クでは男子は旧ソ連を中心とした チームが優勝したが、今年3月に スウェーデンで開催された世界選 手権大会では旧ソ連の流れを汲む ロシアが優勝した。  そのロシアについて「ワールド ハンドボール」に次のような記事 が出でいた。見出しが「ロシアの チームはタイトルを取るのに2週 間の準備で十分であった」であり、 「選手二人一人が何をしたら良い のかを十分に知っていた。普通の チームならとても2週間では出来 ないことをピカーのロシアチーム は成し遂げた。世界選手権大会を 制するのにそれ以上は必要なかっ たというのは本当のことである。 監督のウラディミール・マキシモ フ(旧ソ連の有名なアタッカーで あった)は、彼らがジュニアチー ムの時の監督であり、同じスタイ ルで数年間やってきたのも一因で ある。彼らは素晴らしい選手であ り、スウェーデンでの第13回ジュ ニア世界選手権大会で優勝している」としている。

バスケットのドリームチーム  

これとよく似た話はバルセロナ オリンピックで優勝したドリーム チームである。ご存知のようにプ ロリーグの際だったプレイヤー達 が、マジック・ジョンソンの呼び かけで集まったと言う(これでヨ ーロッパはバスケットの人気がでてハンドボールを脅かし始めていると言うことである)。

このチームは、恐らく一緒に練 習した時間は極少ないであろう。 ひょっとしたらないかも知れない。 どんなゲームをやるか打ち合わせ 程度かも知れない。それで十分なスペシャリストが集まっているわ けである。サッカーが大変なブー ムであるが、Jリーグも強い代表 チームを作る一環として発足した と言われる。高いレベルで揉まれ 成長すれば、強化強化と騒がなくても済むという発想である。

スポーツイベントがこれだけ過 密する中では、代表チームが何百 日も強化に時間をかけることは無理な時代であり、今となっては新 しい発想が求められるわけである。 ナショナルチームとは選り抜きの エリートプレイヤーが調整して試合に臨むのが理想である。

「自立した選手」の育成  

ロシアやアメリカのバスケット のチームで思うことは、指導体制 の一貫化の問題と選手の育て方に関して、如何に自立した選手を育 てるかという問題である。  

たった2週間の準備で世界を制 することが出来たのは、ジュニア 時代に一緒にやっていたこともあ ろうが、選手一人一人がハンドボールを良く知り、それを実現出来る技術を身につけていたことである。  

ハンドボールはチームゲームで あり、そのチームが求めているゲ ーム構想を理解し、それを実践で きる各個人の技量が必要である。 よく経験することであるが、ハ ンドボールをよく知り技術のあるプレイヤーが集まれば、一度も練 習をしたことがないチームでもゲ ームを上手に作っていくことがで きる。逆にチームから離れると、力を発揮できないプレイヤーがい る。このプレイヤーは、そのチー ムでしか生きられず、いわば自立出来ていない未熟なプレイヤーと 言える。

選手はそのチームの単なる駒であってはならず、ゆくゆくは一人一人がチームのゲーム構想 を理解し、独力で判断し、プレイ して行ける自立したプレイヤーに ならなければならない。

指導体制の一貫化  

指導体制の一貫化とは、言い換えれば「自立したプレイヤー」を如 何に育成するかの問題と言える。  

今始まった事ではないが、ハン ドボール界では指導体制の一貫化 が叫ばれて久しい。何故か。アジアで少なくとも男子はソウルまで、 女子はモントリオールまでトップ を誇り、世界で上位にいけなくと もアジアでの日本の面目を保ってきた。しかし、韓国や中国或いは アラブ諸国の台頭で日本の弱体化が目につくようになってからは、 やはり何とか強いナショナルチー ムとの声は大きくなってきている。 そこで出て来るのが指導体制の一 貫化の問題である。  

ナショナルチームに入ってもとっくに卒業しているはずの技術を教えねばならないとすれば、本来 ナショナルチームとしてやらねば ならないことが出来ない訳である。 大学で何を教えているのだと言 うことになり、大学では高校は、 高校の指導者は中学校では、となる。

一人の選手は何人もの指導者に育てられる

 日本は指導体制の一貫化が非常に図りにくい体制にある。一人の 選手は一人前になるまでに何人もの指導者によって育てられ、その 連携も取れないままである。技術 体系も指導体系もまだ十分成熟していない。  

熱心な指導者なら、そのレベルで出来るだけ勝ちたいと思う。そ の選手の将来にわたる計画の基に指導することは、今の社会の情勢 ではちょっと考えにくい。 一般的には図のように低年令層ほど技術面に比重を置き、段々と戦術、体力的な面を強化していくと言うのが順当であろう。

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実際、 小学生や中学生に高度な戦術を教 られるはずがない。その戦術をこなそうにも技術がついて行かない。 従ってチームの戦術としては小学 生、中学生にとって無理のない簡単なものを採用しなければならな い。  

それよりパスキャッチ、ドリブ ル、シュート、ステップワーク、 身のこなしなど、基本となる技術をしっかりと身につけさせ、それらの技術を使ってゲームを楽しま せるようにする必要がある。  

勿論勝負も大事であるが、戦術に拘って高望みをし、自由奔放な子 供の自由を奪ってはならない。基礎 技術の習得に当たって、特に注意 しなければならないことは、動作は回数を重ねると習慣化する。悪 い動作が習慣化しないように、特 に初歩段階は注意して観察し指導することが必要である。私は大学でいろんな選手を預かるが、習慣 化した悪癖は到底直しづらいもの である。  

そう言った意味で、プレイヤー が技術を獲得し習慣化していく過 程に接する指導者の役割と責任は大きいものがある。  

ジャンプシュートの動作について

例えば、大学で預かった選手にジャンプシュートをさせてみると、 実に様々のフォームでシュートを試みる。ジャンプシュートを成功 させる要因はいろいろあるが、そ の一つにジャンプの滞空対空時間、 ジャンプの高さや幅がある。GK やディフェンスのタイミングや方 向を外す上で、それは重要なファ クターである。

ジャンプシュートは走・跳・投 が連続融合するハンドボールの技 術の中でも最も重要な動作であるが、ボールを持っての動作であるために技術的要因が大きい。  

図は高く跳んでジャンプシ ュートさせたときの、A及びB のシュートフォームと重心の軌跡である。私のクラブの部員の中で 最大と最小を比較したものである。 良く跳ぶものとそうでないものとの差は25cm近くもある。この差は どこから出てくるであろう。

 

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体力 ・技術的要因などを分析してみなければならないが、ここで言いたいのは、これだけ違って育てられて(育って)きたと言うことであ る。  

もしこの選手がもっと跳べたら と思うことはよくある。指導者の責任だけに帰することが出来ないが、正しい動作を学び或いは教えられなかった結果として今あるわけである。次回は跳ぶ人とそうで ない人の動作の違いについても書 きたいと思っています。

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