大西武三

技術・戦術は時代とともに変化し進歩していく。それを可能にするものは、指導者やプレイヤーの創意工夫である。またルール改 正も原因の一翼を担っていることは確かである。ボールテクニックに関しては、片手のボール操作が通常化したことも大きな要因であ る。この片手操作は、形態的に大型化してきたこともあるが、ボー ルが変形せず規格ぎりぎりまで小型化したことやマツヤニや両面テープの使用によるところが大きい。

よく昔に比べてハンドボールの進歩が話題となることがある。「昔の方がもっとすごかったよな」、「今の方が確かにテクニックは上がっている」、「テクニックは多彩だが小手先のものが多い」と、かいろいろ のことが言われる。長い間、ハン ドボールを見つめてきた私にとっ て言えることは、確実にゲームのテンポは早くなっているし、テクニックはバリエーションが豊かに なっていることである。

今回は右サイドのシュートテクニックを取り上げるが、サイドシ ュートも年々その技術が向上し、「サイドで打たせればよい」式の戦術では到底対処できないくらいテクニックは質量とも向上し、その成功率は上がってきている。

サイドシュートの戦術的意味

厚みと幅をもって攻撃すること は、攻撃の基本的要素である。デ ィフェンスを横に広げ、縦に広げ ることはディフェンスの守るゾー ンを広げることができる。ディフ ェンスは孤立化し、コンビで守る状態を崩される。幅と厚みのある攻撃は、ロングシュートとサイド シュートの技術的能力によって実 現される。

より遠い位置から、よ り角度のない位置からシュートを入れることが、ディフェンスのシステムを破壊させる可能性に繋が るものである。それらの能力がなければ、ディフェンスはシュート確率の高い、中央ゴールエリアラ インを中心として狭い範囲を守る戦術を取ることが出来る。

強いチ ームには必ず上手なサイドシュー ターと強力なロングヒッターがいて、それらがチーム戦術の中で有用な働きをしているものである。

サイドシュートの割合

表1は1994年に広島で開催 されたアジア大会での各チームの 全得点に対するセットオフェンス でのポジション別の得点や速攻等 の得点の割合を示したものである。

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この数値から各チームの攻撃の特長を読み取ることが出来る。各チームのサイドシュートの占める割合は女子では平均11パーセント強で各チームとも余り差がない。

男子では平均13パーセント弱である が、チームによってばらつきが見 られる。 図1、2はサイドシュートのアジア大会での全得点と成功率を示したものである。

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男女とも本数、 成功率において韓国がトップの位 置を占めていることがわかる。

サイドシュートのテクニック

ここで言う「テクニック」とは サイドシュートをするときの動作の形を言っている。実際のゲーム ではこの動きの形をゴールキーパ ーとの対応場面で使いこなすわけである。この使いこなしが個人の戦術である。いくらよいテクニックを持っていても、それを使いこなす戦術的能力がなければシュートは成功できない。また逆のことも言える。

 サイドでは他のポジションと違 ってシュートの角度が小さいので、 ゴールキーパーを外して決めるためには、サイド特有のテクニックが必要である。

右サイドのシュートテクニック

平成2年に卒業した渡辺洋介君が私の研究室で「ハンドボールに おける右サイドのシューティング パターンについて」の題目で卒業 論文を書いた(右サイドは図3のよ うにプレイヤーがゴールに向かっ て右側のサイドのこと)。

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 右サイドは左利きのプレイヤーが配置されているのが、トップレベルのチームでは当たり前になっている。彼は右利きでありながら、右サイドポジションであった。

右サイドでは、左利きプレイヤーは 右利きに比べてシュート角度が取 れ、右サイドから左サイドに至るまで回り込みながら無理なくシュ ート動作に入ることが出来るので有利である。彼はそのハンデを補うために、プロンジョンシュートをマスターしてサイドのポジショ ンを務めあげたのであるが、この 研究を通してサイドの基本的なシュートのテクニックを明らかにしてくれたことはサイドシュートの 指導上、大変に有意義であった。  

渡辺君は関東大学リーグの試合 30試合を分析して、右利き、左利きプレイヤーともに5つのパターンに分類している(図は渡辺君の 原画をもとに修正、加筆、再構成 したものである)。

 

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右利きプレーヤーのテクニック

 図4は5つのシュートテクニックを示している。

実際のゲームで最もよく使われ るのがオーバスローである。次い でプロンジョンシュートである。

1から3までは通常のジャンプシュートの要領で、ゴールエリアの中央に向かってジャンプして角度を稼ぎ、シュートするものである。

3つの区別はスローする腕の使い方によっているが、高い位置でボ ールをキープするバックスイングを素早く行うことが後の動作を容易にする。

4と5は、より角度を 取るためにゴールエリア内で身体を横にしてダイビングするものである。ジャンプシュートに比べ、 低い体勢から踏み込むことが要求される。マット運動等で巧緻性を養うとともに、投げた後の受け身 (ローリング、スライディング) を修得する事が必要である。

5のテクニックはプロンジョンを打つと見せかけて、ゴールキー パーを遠目に誘い、サイドやアン ダーパスでインコースを狙うテクニックである。

「プロンジョンシュート」の名称の由来

どなたかこの名称の由来を知っている方がおられたら教えていた だきたい。日本では使用しているが、国際的には聞いたことがない。 英語版では「ダイビングショット :Diving Shot」である。飛び込 むという英語に「Plunge in」がある。この「Plunge in Shoot」「プランジンシュート」がプロンジョンシュートになまったのではと思われるが。

左利きプレーヤーのテクニック

図5は左利きプレイヤーの5つ のテクニックを示している。  

4は通常のバックスイングで体勢を整えた後、上体をインの方向へ倒しながら位置をずらしてフォ ワードスイングするものである。

5はバックスイング終了した時 点でインを打つようなバックスイングを行ってゴールキーパーをインスイングでインの方向へ誘い、フォワードスイングでアウトへ変 化するものである。

 最もよく使用されるのが、2の サイドスローでのテクニックである。サイドスローによって位置をずらすこのテクニックは左利きプレイヤーの利点と言える。ついでよく使われるのがオーバースローである。

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サイドシュートの基本的なテクニック

大学のトップレベルのプレイヤーは右サイドにおいて右、左利きともに5つのパターンを持って、 ゴールキーパーに対処していることが分かる。では、一人一人のプ レイヤーが全てのテクニックをマスターしなければならないのかと言えば、必ずしもそうとは言えないであろう。

一つのテクックしか持たなくてもシュートのタイミ ングやジャンプする方向、あるい はシュートコースを変化させることなど戦術的な面によって対処す ることは可能であろう。

しかし、 一つのテクニックしかないとなればゴールキーパーも予測の範囲をしぼり込むことは可能であろう。 やはりサイドでは得意なテクニッ クを中心としていくつかのテクニ ックを修得し、ゴールキーパーの 状況に応じて使いこなすことが成功率を高めることになるであろう。

右サイドでは専門的なテクニッ クとして先ず何を教えるべきであろうか。左利き、右利きともオーバースローはハンドボールの基本として学んでいるはずである。したがって左利きではオーバースローのバックスイングからサイドスローへの変化を、右利きではプロンジョンシュートを教えることか らはじめればどうであろうか。

逆足によるジャンプ

 右利きなら左足で、左利きな右足でジャンプするのが通常のジ ャンプシュートにおけるジャンプ 法である。ところが、その足とは、 逆の足でジャンプしたほうがよい場合がある。逆足ジャンプは11人 制の頃は2段ジャンプシュートと命名されていた。というのは空中へ跳び上がってからバックスイン グを行うために空中でもう一度空中でジ ャンプしたような錯覚にとらわれ るためであろう。

実際に実験して みると、確かに右足の方が急角度で空中に跳び上がり、滞空時間も長いという結果が出ている。空中でもう一度ジャンプするような錯覚も、跳び上がってから上体を伸ばし、ボールを持ち上げるので重心が上方に変化するためであろう。

国内外を問わずトップレベルの 試合を見てみると、この逆足ジャ ンプは結構使用されている。特に、 左サイドでの右利きプレイヤー、 右サイドでの左利きプレイヤーは 1対1を突破するステップとの関 連からもよく使用されている。

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逆スピンシュート

私が初めて逆スピンシュートを見たのは、ユーゴのサイドプレイ ヤーのイサコビッチである。10年も前であろうか。今では、かなり見る機会も増えてきている。1993年の男子の世界選手権では、 かなりの確率で使用され、その曲 がり方も相当なもので、まさかというような角度でゴールに入っていく。世界的なレベルでも女子はまだ少ないようであるが、そのう ち日本でもサイドシュートにおける基本的なテクニックとして逆スピンシュートが定着するものと思 われる(前年のオリンピックソリ ダリティではルント氏はこのシュ ートのことをツイストショットと 言っていた)。

サイドシュートにおける滞空時間の意味

サイドシュートが成功する要因 として技術・戦術的なものを述べてきたが、もう一つ体力的な要因として滞空時間を上げることが出 来る。

この狭い角度では、滞空時間をかせげるジャンプ力がなけれ ば、シュートボールの出る位置、 タイミング、シュートテクニック の選択等限られた状況になってしまう。滞空時間の豊かさが空間の移動を可能にし、またタイミングを選び、そしてゴールキーパーの体勢を判断して、どのテクニックを使用するかを決定できる。

競技 力は技術・戦術・体力の面から見ることができるが、サイドシュー トにおいてもジャンプ力を強化することによって技術・戦術をより可能性高いものへと引き上げてくれる。ジャンプの仕方については、 以前の指導法で取り上げたことが あるが、サイドシュート技術をより向上させるために技術(テクニ ック)・戦術・体力の三面からアプ ローチしてもらいたい。

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