大西武三

●練習がゲームに結び付かない

練習がゲームに結び付かないと言うことが言われる。ここで言うゲームとは公式試合の事であり、練習とはゲームを含む練習全ての事である。練習は何のために行うかと言えば、「ゲームを上手にやるため(試合に勝つために)に行うものである」と単純に言うことが出来る。

体力のトレーニング、技術、グループ(コンビ)、チーム戦術、ゲームも全て練習は公式ゲームでいい成果を挙げるために行うものである。その意味では練習がゲームに結び付かないはずはないのであるが、現実はどうもそうではないのである。今回はこのことについて考えてみたい。

●もっとゲームをやったほうが

「ゲームは教師である」という諺が中国にある。確かにゲームは色々なことを教えてくれる。ハンドボールとはゲームそのものであり、基本の練習がハンドボールではない。基本的な練習をきちっとさせるにはゲームとはどんなものがよく体験して知らなければならない。

ゲームをやれば、何がゲームに必要かを教えてくれる。意義のない練習をするのだったら毎日ゲームをしたほうが良いくらいである。特に初歩的レベルのチームには、ゲームを行いその面白さを伝えることによって、モチベーションを高める必要がある。

人数が少なければ、他チームに練習試合を積極的に申し込んで交流するなり、人数を少なくしたゲームをすればよい。もし人数が少なくてもゲームに含まれる局面は全て経験できる。ゲームは馬の鼻先にぶら下げられた人参ではなくハンドボールの目的である。常々ゲームをして基本練習の意味を知り、積極的かつ熱のある基本練習をしてもらいたい。

●やりっ放し

何事もそうであるが、何かをやればそこには目的がある。やりながら常々評価し、うまく行ってなければ課題を見つけて処方する。そういうことを繰り返して目的のものに近づけていく。練習も同じである。このことを図1に示してみた。

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しかし、スポーツの練習では練習そのものに満足して課題を先送りしてしまうということは良くあることである。ゲームと練習とが結び付かない最大の原因は、練習のやりっ放し、ゲームのやりっ放しではないかと思われる。やりっ放しの中から進歩は生まれにくいこと知っておかなくてはならない。

●やりっ放しの原因

やりっ放しの原因は、練習やゲームを正しく評価し出てきた課題を指摘し、その処方を出してくれる人がいない場合が最も多いではないでしょうか。今このチームはどこをつつけば上手くなるのか、あるいはこの選手のどこをつつけばうまくなるのか。その評価と処方が大事である。

指導者の役割の大きな部分がそこにあるが、それがなければまず「やりっ放し」にならざるを得ない。指導者のいないチームはそうなりがちである。それでは指導者が専門家でなかったりいなかったりしたらどうするのか。高校段階までは、選手に指導者の代わりをさせるのは無理である。ハンドボールが良く分かっているOBにお願いしてきてもらったり、指導者のいるチームに連れていって、練習を見てもらったり、ゲームの評価をしてもらったりするとよい。

それより、顧問になられた先生が、一念発起してハンドボールを勉強していただき、その面白さを知って生徒とともにハンドボールの道に進んでいただくのが最も良い。ハンドボールに素人だった何人もの先生方が日本一の座に着かれた事実は励みになるはずである。ハンドボール未経験者の発掘や支援は我々ハンドボール経験者の役割の一つである。

●評価、処方するには

評価、処方をするには、ハンドボールとハンドボールを取り巻くスポーツの諸科学を良く知っていなければならない。そのことをを知らないで、評価するのは間違った処方をする原因である。医者が間違った処方をして患者を死なせたらそれは社会的な大問題になる。スポーツの診断と処方は相手を死なすことにはならないが、選手にむだな努力を強いたり、せっかく能力ある選手の素質を積みかねない。

ハンドボール指導者の専門性、一言で言えば「評価(診断)、処方」が適切に出来る人である。極論すれば、1時間指導すれば1時間分チームや選手を上手く出来る指導者である。選手のやっていることと指導書等に書いてあるもの良く観察して見比べて欲しい。指導者にとって大切な観察能力が身についてくるはずである。

また、ゲーム等をスコアーにとって分析集計すれば、自分の観察能力をもっとバックアップしてくれる。 ハンドボールもハンドボールを取り巻く世界も時代とともにどんどん変わって行く。指導者が現場に接していれば、その中で、変わらない部分と変わっていく部分を指導者は敏感に感じ取れ指導に生かしていけるはずである。

●パターン化練習

パターン化練習の意味は二つある。 一つは毎日毎日同じメニューで練習をやるというものでパターンの決まった練習である。練習というのは先ほども述べたようにゲームを上手にやるために行うのであるから、ゲームで課題が見つかったり、課題が達成できたら練習方法は変わってくるはずである。

二つ目に、技術や戦術が相手に関係なくパターン化してしまうというものがある。技術やコンビなど単なるパターンとして教えてもゲームでは有効に作用しない。なぜその動きをするのかあくまでもデフェンスとの関係の中で指導する。パターンの中でテクニックやコンビが使えるようになればデフェンスを入れて、どの段階でも「シュートを狙う」と「プレイを継続する」という原則に基づいた練習を導入しなければならない。

デフェンスが入れば、動きやテクニックのバリエーションが一つのパターンから付随して生まれて来るはずである。これは選手の戦術的要素であるがゲームではこれが大切な要因である。

●対応動作として練習する

ボールゲームは対応動作より成り立っている。自分の技術が発揮されるときには必ず相手がいる。従って技術の練習には必ず相手をつけて攻防し、お互いの技術・戦術を最高度に発揮して行う練習が必要である。新しい技術や戦術の導入段階においては、防御あるいは攻撃の一方に比重を置いてパターン的な練習を行う場合があるが、最終的にはお互い対等の立場で練習するように持っていかなければならない。

と言う具合いに どちらかが適当にやっている攻防練習はゲーム場面とは程遠く実戦的意味を持たない。

●スピード不足

ゲームで技術が通用するためには、

練習をみているとゲームでは到底通用しないスピードで練習している場合がある。練習時間が長いために、体力を温存しているためであろうか、初歩的な段階ならまだしもその技術を習得している場合はよりハイテンポの中で技術を使わせ、ゲームで通用するスピードを習慣化させることが必要である。

形が整ったらスピードを上げていくことが必要である。だらだらした練習も何時間やっても技術的には意味のないことである。

●コートの外からのサイドシュート練習?

ゲームのアップなど見ていると、サイドシュートをするのにコートの外から何歩も走ってシュートしているチームをよく見かける。ゲームではコートの外からシュートすることはない。ルール違反のことをいくら練習しても無駄である。

サイドでは2〜3歩しか助走が取れず最初の一歩がシュートの踏み込みを決めると言うのにである。普段の練習でもやっているのではと思われるがこれでは練習が試合に結び付かないのは当り前である。

これは一つの例えであるが、日頃やっている練習をゲームとの関係で見てみると必要のない練習やもっと練習方法を改善すべきものが見つかるはのではないだろうか。

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