大西武三

○オリンピックソリダリティから

IHF/デンマークからルンド氏を招き、講習会を行った。学ぶべきものが多くあっが、中でも強く感じたことは「ハンドボールはどうあるべきか」そのことを自分自身の中で確立していかなければならないということであった。ルンド氏はこれを「ハンドボールのフィロソフィー」の言葉で表現し自分自身のあるいはデンマークのハンドボールを理論的の述べた。そしてそのハンドボールフィロソフィーにもとづいて実際にトレーニングをしてみせた。

この講習会で参加者の方々が、最も関心をよせたのは、このルンド氏の「フィロソフィー」と「トレーニングとはフィロソフィーから導きだされるもの」と言うことではないでしょうか。

○技術の到達段階;金銀銅

この講習会で非常に感心したものの一つに技術の到達段階を金銀銅という形で示したものがある。

ハンドボールの戦術につながる基礎的な技術(テクニック)の項目を挙げ、それをプレイヤーが独習し出来るようになれば指導者にチェックしてもらい、一つの段階の項目に全てパスすれば、次の段階に進んで行くものである。最も初歩的なものが銅であり、銀→金になるに従って難しくなっていく。

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金銀銅とも項目は次の7項目よりなっており、各項目は2、3種類のテクニックで成り立っている。 動作の習得が基本となっているが、中には体力的要素や調整力の強化を主としているものもある。

ゲームはこれらの技術(テクニック)を試合場面に応じて使いこなしていくことである(戦術的側面)。 技術(テクニック)は試合場面を切り開いていく道具であり、戦術は道具を如何に状況に応じて使いこなしていくかという判断的な側面である。この両者が相俟って競技力の成果を発揮することが出来る。

このゲームをする際の道具となる個人のテクニックを各個人が責任をもってやるように進めているわけである。 ハンドボールの練習を毎日行っていても、自分のテクニックが正しいかどうかのチェックは受けずにいることが多いのではないでしょうか。また、各個人が習得していかなければならないテクニックが示されていないために目標を持たず、漫然と同じテクニックのトレーニングを繰り返していることはないでしょうか。

最近個性的な選手が少ないと言われるが、いろんなテクニックを学習する中で個性が出てくるものと思われる。 このように到達していくべきテクニックが項目として明確に示され、到達すれば次の段階へと進めるステップアップ方式はプレイヤーにとって非常に大きなモチベーションになるであろう。

指導体制の一貫化のうえからも日本協会レベルで是非取り組まなければならない課題である。皆様の方でも、対象に応じた金銀銅テクニックを設定し試行していただきたいと思います。

○戦術のトレーニング

デンマークでは戦術のトレーニングに多くの時間が割かれるそうである。テクニックは主に個人の問題であるという考えである。「金銀銅」で述べたように、テクニックを各個人が練習前に来て独習するというシステムを推し進めているがゆえにこのようなことがいえるのであろう。ナショナルチームではテクニックの練習は禁止されていて、全ての時間は戦術のトレーニングに割かねばならないそうである。

日本の技術戦術的側面を評してよく言われるものに、「基礎技術がない」「独創性がない」がある。何故このようなことが言われるのか考えてみたいが、前者は試合に勝ちたいがため、テクニックの練習より試合のしかた、コンビネーションにといった戦術的側面に時間を割き、テクニックのレベルは低くても試合の仕方にポイントを置き小さくまとめて勝つという指導方法の結果として生まれたものである。

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自分に任された数年間で大きな大会に勝とうと思えば、技術と戦術を両天秤にかけ、戦術に練習の比重をかける指導方法である。これも一つの方法であるが、大きく選手を育てるためには、問題があることも確かである。指導者に対する評価が、将来選手がどのように育っていくかより、現在如何に勝つかに向けられている状況では指導者を責めることが出来ない。

後者は、試合の場面において対応方法はいくつもの選択肢が考えられるが、テクニックがないために選択肢が限られるのか、指導者の考えが堅いために、ある選択肢しか許されないと言ったことがある。チームの戦術に則りながらもプレイヤーが限りない選択肢の中から選ぶ可能性を持つことが独創性につながるものと思われる。

そのためには、プレイヤーが十分なテクニックを持つこととプレイヤーや指導者の柔軟な戦術に対する考えが求められる。 前置きが長くなったがアラン ルンドが行った戦術の指導法の概要について述べたい。

ハンドボールのフィロソフィーから導かれてゲームにおける6局面の指導が行われたが、概要をわかりやすくするために第4局面セットオフェンスでの指導法を述べたい。

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第1段階(机上プラン)

あるデフェンス戦術に対して、基本的なフォーメションをつくる。

第2段階(動きの理論と実際)

指導者は、その動きを実際にレイヤーにやらせるが、なぜそのように動くか、動きの中で区切りながら説明し、指導者の考えを良く理解させる。

デフェンスは相手の動きに合わせて消極的に守る。

第3段階(動きのスピード化)

実際の動きのスピードで合わせる。

第4段階(動きのバリエーション)

攻撃の導入部は同じであるが デフェンスの予測を外すために、動きやパスのコースを変えて、一つの動きからバリエーションを作っていく。

第5段階(テクニックのバリエーション)

同じ動きの中で、個人の技術のバリエーションを加えていく。例えば、ポストにパスするにも色々な方法があるがデフェンスの状況によってテクニックを変化させる。

第6段階(戦術の実際)

防御側にしっかりと守らせて攻防する。この段階では、チームとしての動きの中で、シュートを常に狙いながらプレイを行いシュートのチャンスには、思い切ってシュートすることが重要である。

第7段階(フリーオフェンス化)

一つのフォメーションを状況に応じてバリエーションを作っていきフリーオフェンス化していく。そして同様にいくつかのフォーメションをフリーオフェンス化し、相手チームの状況に応じて、どこからでも攻められるチームの攻撃法としていく。

以上であるが、一つの基本的な道筋からいくつもの脇道が派生しフリーオフェンス化していくことを十分に理解させ行わせることが重要である。 「日本ハンドボール協会編;ハンドボール指導法教本」に各種の攻撃展開例が載っていますので参考にしてください。

○プレイアブル(playable)

ルンドは戦術用語として「プレイアブル」と言う言葉を使った。ルンドはこの「プレイが出来る」という状況を作り出すことがボールゲームの最も重要なことであると説く。以下講習会より

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ハンドボールは60分である。両チームがボールを持つ時間はその半分の30分である。1チームはGKを含めて8ー10人くらいの選手がいる。一人ボールを持つ時間は3分になる。外に出ていたり空中にあったりするので最高2分くらいである。残りの58分はボールを持っていないことになる。このことを考えたことがありますか。考えたことがないとすれば皆さんは2分間のことに集中していることになる。

58分のその半分29分がディフェンスに費やされている。ボールを持っていない29分間の攻撃のことを考えて欲しい。ボールを持っていないときの攻撃の仕方を教えていますか。ハンドボールの攻撃は自分がボールを持っているときだけでなく持っていないときも攻撃と言える。

ボールを持っているときはシュートやパスをする。それは技術的側面である。 持っていない29分間は技術を使うための動きであり、戦術的局面と言える。 ボールを持たないプレイヤーの動きについて10年前までデンマークで議論されていない。

ハンドボールやバスケットサッカーの専門家が集まり、バレーボールの専門家も来てもらったがバレーボールは球技でもハンドボールと違うので除外した。全てのエクスパートはハンドボールをする意義は何かを議論した。結果として一つの共通する言葉が生まれた。それは「プレイアブル」である。これはボールゲームで最も重要なものである。

プレイアブル (プレイが出来る)

これが戦術的なハンドボールをするということである選手がこれを分かれば何も心配することはない。この3つがハンドボールである。

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日本ではこの「プレイアブル」の言葉は使用されず、プレイアブルになるための用語として「マークを外す」「ノーマークを作る」があり、表と裏の関係に当たる。

○戦術的ゲーム

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プレイアブルはボールゲームにおいて最も大事な要素であるが、このプレイアブルをゲーム的に行い習得させようとするものがこの戦術ゲームである。 戦術的ゲームの代表はパスゲームである。ハンドボールのゲームのように敵味方が混成する状況でパスゲームを行う。

得点は相手のコーンにボールを当てたり、パスカットされないである回数のパスを続けるなどである。またそのパスをバウンドでさせたり、バックパスでさせたりさせる。プレイアブルに技術敵要素を加えながら、ゲーム的にモチベーション的に行うものである。

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ルンドは練習の最初にいつもこの戦術的ゲームをを取り入れた。最初に取り入れる意味は幾つかある。

ハンドボールにはいろんな要素が組み合わさってゲームを構成しているが、これらの要素を簡易ゲームの中で行い、楽しみながら、自然に習得させるのは良い方法である。 ソリダリティの講習会の内容は別の機会に詳細に報告するつもりである。

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