一方的にアドバイスされるという練習ではなく,まず自分たちで考えるというワンクッションが入ったものになってきたようです。自分で考えることで,指導者のための練習ではなく自分たちのための練習,あるいは試合という考え方になってきているようです。

3.選手の扱い 

地方の県立高校である本校は,合宿所などもなく選手のリクルートは積極的にできません。したがって運動能力の高い生徒,低い生徒,全国大会で活躍したいと思っている生徒,ただハンドボールが好きな生徒と,いろいろな生徒が入部してきます。そこで入部時に,うちの部は勝つことを目標にしているんだということを納得してもらっています。人には適性というものがあって,あるものは選手として,あるものは選手を支える裏方として,チームの勝利に貢献できたらといった考えです。能力の低い生徒は審判ができたり,下級生に理論を教えたり,テーピング講習会に参加したりと,責任ある活動をしています。

4.試合と練習の関係 

集団スポーツと芸術,特にオーケストラの演奏は共通点が多いと思っていました。観客のいる発表の場がスポーツでは試合となり,オーケストラではコンサートということになるのではないでしょうか。その発表の場で観客に感動を与えたり,自分たちが満足したり,緊張しないために,あるいは失敗しないために日々の練習の場があるのです。オーケストラも,各楽器の演奏者が自分のパートを責任をもって演奏し,1つの音楽になる。スポーツも各ポジションに任される役があり,それを有機的に組み合わせて試合になるということです。それぞれが任された仕事を責任をもってできるように努力する,それが試合だと思います。

6世界の指導者の教え

 

ここで述べられている指導者は,日本に来日して講習会を開催した世界的な指導者である。クンスト,ムラッツ両氏は,IHFのCCM(CommitteeofCoaching and Method)のメンバーであり,クンスト氏は長きにわたって委員長を務め,世界のハンドボール界に君臨する指導者である。ショーベル氏は,ルーマニアの世界的選手であったが,来日当時乞われてハンドボール王国ドイツナショナルチームの監督をしていた。コスメール氏は旧東ドイツナショナルチームの名選手であり,世界各国を渡り歩くまさにプロのコーチ請負人である。これらの世界的な指導者の講習は,日本の指導者に計りしれない多くのものを残していったが,その特徴的な事柄のみを述べたい。

1.Ioan Kunst Ghermanesucu 

指導者に求められる資質には,その人自身が人格的に優れていること,そしてその道のオーソリティであることを挙げることができる。 ハンドボールの世界的指導者といわれるクンストこそ,その条件を備えた指導者であると言えよう。 

クンストは,1953年から1982年までルーマニアのナショナルチームの監督を務め,世界選手権での優勝をはじめ,オリンピックでも常に上位の成績を収めた。

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