島林 護
【写真1】 地上からのディスタンスシュート (欧州選手権/4番・クロアチア代表選手イヴァノ・バリッチ)
室内ハンドボールにおける戦術および技術の歴史的発展は、古くはドイツ語圏を中心として形成され、その後、東欧諸国を経て北欧へと広がってきました。とりわけ1990年代以降、北欧諸国は国際大会において顕著な成果を挙げ、世界のハンドボール界において大きな注目を集めるようになりました。
日本のハンドボール界においても、日本ハンドボール協会は北欧諸国を「ハンドボール界のトップランナー」と位置づけ、特にスウェーデンやアイスランドの戦術・技術体系に注目してきました。その結果、日本国内の指導者層が北欧諸国に赴き、先進的な戦術および技術の導入や研究が進められるようになりました。
日本において「ディスタンスシュート」という用語を初めて体系的に提示した人物として、全日本男子代表前監督であるオレ・オルソンが挙げられます。オルソン氏は1996年に来日し、日本代表における初の外国人コーチとして活動を開始しました。指導の過程において同氏は多くの指導記録や発言を残し、日本のハンドボール用語体系および戦術概念の形成に大きな影響を与えました。
さらに、ダグル・シグルドソン氏が2017年から男子日本代表監督を務めたことにより、北欧型の戦術思想や技術概念の導入は、より体系的かつ構造的な段階へと進展しました。これにより、日本のハンドボール界において北欧型の戦術モデルや概念が一層定着していくこととなりました。
このような歴史的背景の中で、日本のハンドボール用語体系に新たに加えられた概念の一つが「ディスタンスシュート」です。本稿では、この「ディスタンスシュート」という用語が、どのような思想的・戦術的背景のもとで成立したのかを明らかにすることを目的とします。具体的には、1980年代以降の戦術研究において重要な理論基盤となったドイツハンドボールの空間構造モデル、すなわち「サークルゾーン/近距離ゾーン/遠距離ゾーン」という3つのゾーンによる空間モデルに着目しました。そして、この空間モデルがスウェーデンを中心とする北欧ハンドボールおよびドイツの戦術研究においてどのように整理・分類されてきたのかを踏まえながら、「ディスタンスシュート」概念の歴史的・概念的背景を「richtig handballspielen Wend-Uwe Boeckh-Behrens『ハンドボールの正しいプレー方法 - ヴェンド=ウーヴェ・ベック=ベーレンス著』(1980)」(ドイツ)と「Handball Training Technik Taktik Hans-Dieter Trosse 『ハンドボールのトレーニング:技術と戦術ハンス=ディーター・トロッセ著』 (1977)」(ドイツ)そしてelitserie i handboll säsongen 2017-18 /Andreaz Zanteré & Andreas Fehrlund『ディスタンスシュートか、それとも突破からのシュートか― 2017–2018シーズン女子ハンドボール・エリートリーグ80試合におけるシュートの量的統計分析 ―アンドレアス・ザンテレ & アンドレアス・フェールランド』(2019)」(スウェーデン)論文より探究していきたいと思います。