筑波大学体育科学系紀要 Bull.Inst.Health&Sport Sci., Univ.of Tsukuba 20:95−103,1997.
大 西 武 三
Abstruct
The purpose of this study was to clarify the composition of phases in handball game.
The investigation was made by analyzing literatures from Scandinavian nations, Romania, Hungary, former East Germany, and former West Germany, either written by authorities or published by International Handball Federation. According to the investigation, games were appeared to be composed of four major Phases:fast break, defense against fast break, organized offence and organized defence. Each of the former two phases was subdivided into four phases, and each of the latter two phases was into five phases. Furthermore, six specific phases such as free throw existed in each of offence and defence phase besides these basic phases.
日本にハンドボールが紹介されて74年,日本ハ ンドボール協会が設立され競技スポーツとして歩み始めて58年が経過する。登録競技者も高校生を頂点として約8万人を擁し14),アジアでは中国 についで多い競技人口である4)。
アジアのハンドボールは東アジアを中心として発展してきたが,日本は国際連盟が創設されるやいち早く加盟し東アジアにおける指導的役割を果たしてきた。
しかし競技力の面では,従来アジアのトップを誇っていたものの,男子は1985年,女子は1978年に世界選手権大会のアジア代表決定戦に韓国に破 れて以来,その地位を韓国に譲っている。その韓 国女子はソウル,バルセロナオリンピックに2連 覇し,アトランタオリンピックでは決勝延長戦のすえデンマークに破れはしたものの,競技力の高さを世界にみせつけている。男子は最近では中東 諸国の台頭もあり,日本の相手は東アジアのみでなくなってきている。
普及と競技力の関係はピラミッドの底辺と頂点の関係にたとえられるが,それは,各発育段階で適切な指導が行われているという前提があってのことである。また競技力は選手と指導者と環境の関数によってその値が決定されるといわれるが, 日本の現状を考えたとき,指導体制の一貫化がおくれていることや発育段階に応じた指導方法が整備されていないことなど指導者の資質や連携の不備が指摘されている。
ハンドボールなどボールゲームはその競技力を構成する要素が複雑に交錯していることから,ハンドボールの構造を把握することが難しく,現場の指導者は明確な指針をもつことなく,今だに経験主義の指導が蔓延しているといっても過言でな い。
1995年オリンピックソリダリテイ・ハンドボー ル・ナショナルコースがIHF/CCM(International Handball Federation/Committee of Coaching and Method)委員のA.Lund氏を迎えて開催されたが, 講習会の中心的内容はハンドボールのゲームに対する考え方であった。
日々の練習において,監督,コーチを始め,選 手がゲームの構造を知り,どのようなゲームをするか,その具体的なイメージを十分に把握するこ とが重要であることはチームプレイの性質上当然のことである。その具体的なイメージを実現する ために,個々のトレーニングメニューがゲームとどのように結びついているかをチームの個々人が十分に理解しないかぎり,ゲームに直接結びつく効果的なトレーニングを行うことは困難である。
チームがどのようなゲームをするか,その構想を練るとき,ゲームとはどのような構造をしているか,ゲームと戦術・技術の関連は如何になっているのかなどを知ることがゲーム構想を構築しチーム作りを進めていく第一歩であろう。
ハンドボールの先進国であるヨーロッパでは, ハンドボールのゲームを幾つかの局面の連続体として捉え,チームの指針としてどの局面を重要視するのか,そして,その一つ一つの局面に対して, どのようなチーム戦術を採用するのか等を,チー ムの構成員の技術・戦術的能力を考慮しながら決定している。また,そのチーム戦術を支える具体 的なグループや個人の戦術等も決定しトレーニン グプランが設定される考え方が確立されている (図1)。
上述のように,ヨーロッパでは,ハンドボール のゲームをさまざまな局面の連続体として捉え, それを指導上の基盤としているのに対して,日本 はゲームとは何か,その根本となる考え方が必ず しも確立されていない。また,多くの指導書はあるが,ハンドボールとは何か,その考え方を明確にして,論を進めているものも見当たらない(2.10-13.15-23)。そのために,指導現場では,ゲー ム・戦術・技術を体系だって捉えることができ ず,その結果として今だに指導法は確立されていない状況にある。
本研究はハンドボールのコーチングに際して, その基盤となるべきハンドボールのゲームにおけ る局面の捉え方を明らかにすることを目的とす る
。なお,ゲームを観察してみると,攻防の状況によって特徴のある様相が生まれていることがわか る。その特徴ある様相を「ゲームの局面(phase)」 という用語であらわすことができるが,日本で一 般に用いられる「セットオフェンス」や「速攻」 は,ここでいう局面を指す用語の一つである。 A.Lund氏が述べているようにこの局面の捉え方 は時代とともに変化し,その変化はゲームの質を も変化させる重要なものである。
本稿では,上述の課題を明らかにするために, ハンドボールの先進国と言われるヨーロッパ諸国 のゲームに対する考え方を,伝統があり競技力も 高い国で,しかもその国を代表している権威者によって書かれた著書やIHFによって発行された 書物を通して分析・考察した。もちろんこれらの 資料からその国の考え方の全てを知ることはできないが,多少の考え方の違いはあっても,国際的な権威者であり,IHFの指導的立場にある人物によって書かれたものであることから,それぞれの国の基本的な考え方を知ることはできると考えら れる。
次の5カ国を対象とした。
表1はヨーロッパ諸国のハンドボールの局面の捉え方をまとめたものである。
ゲームは局面によって構成されるという考え方はどの国も同じであるが,その捉え方はかなり 違っていることがわかる。なお,表の中で,同じ行にある局面はその攻撃・防御状況が同じものである。
以下に,各国のゲームにおける局面の捉え方について述べる。
攻撃4局面,防御2局面の6局面で構成され, それらの局面は循環するものであるとしている (図2)。局面の循環の仕方としては,常に第1局 面から順次進むものでなく,攻撃の状況によって, 第5局面へ進む場合がある。各局面の内容は次の 通りである。
攻撃の局面
第1局面 攻撃への移行‥‥ボールを奪い,速攻ヘスタートを切る局面である。
第2局面 攻め上がり‥‥ディフェンスから攻撃に切り替わり,相手コートにボールを運び,攻め込む局面である。
第3局面 シュートゾーンへの接近‥‥相手コー トの9mライン付近はシュート可能なゾーンで あるが,そこに接近しシュートかパスかを判断 する局面である。
第4局面 組織攻撃‥‥組織的に攻撃する局面である。ポジションにつきグループ戦術や個人戦 術を用いて組織的に防御を突被しシュートに至る局面である。
防御の局面
第1局面 戻り‥‥攻撃が終了し,自陣へ戻る局面であり,相手の速攻を食い止める局面である。
第2局面 組織防御‥‥プレーヤーが決められたポジションにつき,チームとして組織して防御する局面である。
スカンジナビア諸国の一つであるデンマーク は,この6局面のうち第1,3,5の局面を新たに設け,そのなかでも特に3と5の局面に力をいれて指導している。
攻撃,防御それぞれ4局面の8局面で構成され ている。攻撃の局面
第1局面
一次速攻‥‥攻撃チームがボールを失ったとき,一人または複数のプレーヤーに よって防御から攻撃への急激な移行を行う局面である。
第2局面 二次速攻‥‥先行プレーヤーより後れて速攻に参加しているプレーヤーによって速攻を完成させる局面である。ルーマニアはこの局面を重要視している。なお資料では,第1局面を速攻,第2局面を二段速攻としてるが,ここ では日本で一般に使用されていて同じ意味を持つ一次速攻,二次速攻の用語を使用した。
第3局面 攻撃の組み立て‥‥第2局面による攻撃が成功しないと判断した場合,速攻は中止して,第4局面を始めるために各自のポジションに移動する。そこでパスを回しながら,組織攻 撃の開始を準備する局面である。
第4局面 組織攻撃‥‥この局面は次の3つの局 面にさらに分類される。
1 攻撃の準備局面;ボールとプレーヤーの活発な循環が 行なわれる局面
2 最終プレーの組み立て局面;攻撃の準備局面をもとに して集団戦術を使用してアウトナ ンバーを作りだす。
3 最終プレー;単純なあるいは複雑な個人プ レーによっ てシュートを行う。
防御の局面
第1局面 帰陣(スカンジナビア諸国の項参照)
第2局面 臨時のゾーン‥‥相手に速攻をしかけられて,帰陣したとき,自分のポジションに戻 れない場合が多い。そのポジションにおける臨時の防御の局面である。
第3局面 防御の組み立て‥‥臨時のゾーンか ら,防御プレーヤーがチームによって与えられ た自分のポジションへつき,組織防御を始める準備をする局面である。
第4局面 組織防御前もって定められたシステムのなかで,個人や集団が戦術的原則をもって組織的に役割を果たしていく局面である。
攻撃3局面,防御2局面の5局面で構成されている。
攻撃局面
第1局面 速攻‥‥この局面では,個人レベルで達成される単純速攻と,グループレベルで達成される二次速攻,チームレベルで達成される全員(complete)速攻がある。
第2局面 組織攻撃‥‥個人レベルでは,ポジショニング,準備,スコアリングの3段階がある。グループレベルではクロスやパラレルなどのコンビネーションが必要であり,チームレベルではチームの基本的フォーメーション,攻撃の作り方,攻撃のシステムが必要である。
第3局面 攻撃の終結‥‥組織攻撃や速攻の最終段階であり,個人のシュートによって完結する局面である。言い換えるとディフェンスやゴールキーパーと対決して如何にシュートを決めるかの局面である。
防御の局面
第1局面 素早い帰陣‥‥個人レベルでは攻撃を遅らせること,グループレベルでは素早く後方に動くこと,チームでは,臨時的な防御をすることがこの局面での戦術課題である。
第2局面 防御の組織‥‥個人レベルではポジションニングを行って与えられた役割とチームメートへのサポートを行ない,グループレベルではピストンやチェンジ等を行う。チームレベルではディフェンスフォーメーションやシステムを組む局面である。
攻撃4局面,防御3局面の7局面で構成されている。
攻撃局面
第1局面 一次速攻または二次的速攻‥‥(ルーマニアの項参照)
第2局面 組織化または準備局面‥‥(ルーマニアの項参
第3局面 突破‥‥機動的なポジションプレイや計画された動き,あるいは走りやパスを循環させながらディフェンスを突破しシュートを狙う局面で,ブロックプレイやクロスプレイなどが攻撃手投として用いられる局面である。
第4局面 分散・再組織局面‥‥第3の局面が失敗しても,チームがボールを保持している場合は,第2局面にもどって攻撃を建て直す局面である。
防御の局面
第1局面 戻り(ルーマニアの項参照)
第2局面 防御の組織化(ルーマニアの項参照)
第3局面 組織防御(ルーマニアの項参照)
攻防それぞれ3局面の6局面で構成されている。
攻撃の局面
第1局面 攻撃の開始‥‥防御ポジションからスタートし敵を走り抜く局面である。
第2局面 攻撃の終決準備‥‥反撃速攻あるいはポジション攻撃(組織攻撃)を行う局面である。速攻の素早い走りやポジション攻撃(組織攻撃)のポジションにつき,計画的或いは即興的な共同プレイをおこなってシュートの可能性を探る局面である。
第3局面 攻撃の終決‥‥ゾーンやマンツーマンディフェンスに対して,1対1を突破したり,二人の共同プレイでシュートを作りだす局面である。
防御の局面
第1局面 防御への移行‥‥反撃速攻あるいはポジション攻撃に対して,防御ポジションに引返す局面である。速攻のゴールスローや速攻の出足の妨害を行ったり,ポジション攻撃の組織化の妨害を行う局面である。
第2局面 防御システムの組織化‥‥決められたポジションに着くこと,相手プレーヤーに対して位置取りを修正すること,味方プレーヤーと連絡を取ることなどから成り立っている局面である。
第3局面 組織防御‥‥チームによって決められたマンツーマンやゾーンディフェンスのシステムか,あるいはそれらの組み合わせによる共同プレイによって,相手の攻撃をシステムとして妨害する局面である。
以上各国のゲームにおける局面の捉え方を示し た。
速攻に関してはその捉え方の観点が異なってい る。スカンジナビア諸国と旧東ドイツは時間経過 に従って局面を捉えているが,異なっている点は, 前者はコートの位置に,後者は,戦術的課題に観 点を置いていることである。ルーマニアと旧西ド イツは,速攻の種類(一次,二次速攻)をあげてい る。ハンガリーも速攻は一局面しか挙げていない が,速攻の局面の中で一次,二次,全員速攻をあ げるなど考え方は同様である。
組織攻撃に関しては,スカンジナビア諸国が一 局面しかあげておらず,他は,段階的に局面を示 している。ハンガリーはルーマニアや旧西ドイツ が捉えている攻撃の組み立て局面をあげていない が,組織攻撃のなかで個人的戦術としてポジショニングの段階を挙げており,その段階がチームとしての組み立て局面に当たるものである。旧西ド イツに分散・再編成の局面が設定されている。こ れは攻撃が失敗したときや反則にあって中断した ときに,第2局面にもどって再攻撃をすることを 示すものである。他諸国にはこの局面はないが, 組織攻撃が失敗したり,ディフェンスの反則に あって中断したときは,当然,攻撃の第3局面に もどって再攻撃することは局面の循環の仕方として含まれていると考えられる。
旧東ドイツの特徴は,速攻と組織的攻撃が区別されず,並列的に捉えられていることである。第 2局面はシュートチャンス窺う局面であり,速攻の場合は第1局面から相手コートに攻め入ってシュートの可能性を探り,組織攻撃の場合は速攻 ができないと判断されたとき,ポジションにつき個人やグループ戦術を用いてシュートのチャンス を窺う局面である。第3局面は,速攻,組織攻撃 ともにシュートを個人や共同プレイによって行う 局面である。
スカンジナビア諸国の局面の特徴は,速攻の局面を最も多い3局面に分けて捉え,第1局面に防御の最終状況であるボールを奪うことと攻撃の開始である速攻のスタートを含めた局面をあげてい ることである。速攻の局面を他の諸国より詳細に 分析しているのは,近代ハンドボールの評価が速 攻による得点を一つの指標にしていることもあ り,この速攻を重要視している現れであると考えられる。
一方,防御の局面に対する考え方では,スカン ジナビア諸国,ハンガリーが同じように2局面の 捉え方をしている。旧東西ドイツも同じように3 局面の捉え方をしている。これに対してルーマニ アは最も多い4局面に分けて捉え,その中には速攻の防御で戻ったときの臨時の体勢での防御の局面をもあげている。さらに,攻撃局面と防御局面の関係については,ルーマニアは以下の通り,攻 防同数の局面を設定しており,しかも,攻防表裏の関係として捉えている。
本来,攻撃と防御は表と裏の関係であり,対の対応関係になっている。その意味で,局面も本来的には対の対応関係として捉えることが戦術の目標や課題を定めるのに有用になる。
上述のように,ヨーロッパの各国は,いずれも, 主としてゲームの時間経過に従って,様相の異な るさまざまなゲームにおける局面を捉えようとし ているが,各国の捉え方の違いは局面を大きく捉えるか,より細分化して捉えるかであるが、指導者 にとってはチーム戦術を作るなどの戦術的課題を達成ためには,ある程度細分化されている方が戦術を具体的に設定するのに,有用であると考えられる。
表2は,各国のゲームにおける局面の捉え方を大きく速攻とその防御,組織攻撃とその防御の4 つの局面にわけ,相互の対応関係が理解できるよ うにまとめたものである。
速攻の局面は,上述した観点より3つのタイプ に分類できる。一つはルーマニア・旧東ドイツ・ ハンガリーのタイプであり,他はスカンジナビアであり,もう一つは,旧東ドイツのタイプである。 この3つのタイプを筆者は前者からA,B,Cタ イプとして区分した。
組織攻撃の局面は,時間経過から見て次の4局面に細分化できる。
局面1 攻撃の組み立て‥‥各自のポジションについて組織攻 撃の準備をする局面
局面2 攻撃の準備‥‥シュートのチャンスを作るために個人 やグループの戦術を使用して防御を崩す局面
局面3 攻撃の最終プレイ組み立て‥‥個人戦術やグループ戦術を使用して突破を図り,シュー トチャンスを得る局面
局面4 最終プレイ‥‥シューターがゴールキーパーと対決する個人的な局面。
以上であるが,用語としては,ルーマニアが使用している用語を用いて表した。
防御の局面は攻撃局面に比較してより細分化した局面の分析が行われていない。
なお,上述した局面はゲームにおける基本局面である。しかし,実際の場では,反則や技術的な ミスによって,ゲームが中断し,そこから新たに 始まる局面も観察される。
例えば,組織的な攻撃の局面で防御側が反則をし,攻撃側はフリースローラインから攻撃を再開することがある。そこでは,フリースローという 攻撃隊形を利用して,個人的に突破を図ったり, グループやチームの組織的攻撃を用いて突破を図 ることがある。それらは,いずれも基本的局面に対する戦術とは異なり,明らかにフリースローと いう特別の攻防局面を利用した戦術を使ってお り,組織的な攻撃局面の中に見られる特定の局面と考えることができる。
しかし,ヨーロッパ諸国の資料ではこの特定の 局面に関して特別な取り扱いをせず,組織的な攻 撃,あるいは組織的な防御の局面のなかに記述しているに過ぎない状況である。
表3は,各国の資料をまとめたものである。
フリースローは各国ともゴールエリア前フリー スローラインから行われるものについて記している。ルーマニアのみが,詳細に特定局面を分析して捉え,各局面でのチームの戦術について記して いる。ハンガリーはフリースローと7Mスローの攻防局面とコーナーからのスローインを防御局面 において位置づけている。旧東ドイツ,旧西ドイ ツはゴールエリア前フリースローの攻防局面のみ 記述し,スカンジナビアは戦術の更なる工夫の例としてこの特定局面をあげている。
指導者がハンドボールの局面を如何に捉えて, 戦術的課題を明らかにすればよいかが,明らかになってきたが,攻防の局面が対応関係となってい ない等,ゲームの構造上不適切な面もある。また, 第2局面の準備局面に関しては,実際の場面にお いては,第1局面攻撃の組み立て段階から,次の段階に移るとき,攻撃のきっかけとしての意図的にディフェンスの隊形を崩す活動とそれに追従して継続する活動がみられる。このことは、ドイツ ナショナルチームの監督A.Ehret氏が国際ハンド ボール連盟主催のシンポジュームでも述べてい る1)。従って攻撃の準備局面を具体的な状況をしめす「きっかけ」と「展開」の局面にわけて構成 したほうが,現場としてより具体的,実際的になると考えられる。
速攻は,3つのタイプがあるが,組織攻撃に準じた基準で局面を捉え,タイプCの考え方で構成した。
表4は,表2を上述の考えによってまとめたものである。用語に関しては,日本で一般的に使わ れているものに書き換えてみた。
この細分化された局面は時間経過に従って,移行するが,全ての局面が経過するものでもなく, 攻防状況によって,ある局面を経過しないで移行したり,途中から別の局面へと移行する場合も 多々ある。例えば速攻の場合,局面1で速攻のスタートをし,防御側の戻りが遅く,相手コートに 攻め入ったとき,2:1や1:0の状況で突破の局面を迎えている場合がある。そのような場合は, 展開の第2局面を経過せず第3局面の突破に至る。また,スタートの段階でパスミス等相手にボールを取られた場合は,第2−4局面は経過せずに防御局面へと移行する。
組織攻撃の場合も同様に,局面2のきっかけが個人的な1対1のフェイント攻撃によってはじまったとする。その攻撃がそのまま成功しシュー トに至ったとすれば,きっかけの1対1は第4局 面の突破となり,第2局面きっかけ,第3局面の 展開は経過せず局面は飛ばされたものと見なすことができる。
なお,特定的な局面も基本局面と同様に,攻防対応関係として捉えれば,表5のようにまとめることができる。この特定的な局面は,7Mスローを除いて,攻撃側が積極的に利用しない場合は基本的には組織的な攻防局面へ移行するものであ る。
ハンドボールの指導を行う上で,その基本とな るハンドボールの考え方を局面構成の上から明らかにしようと試みた。
ハンドボール先進国の資料から,ゲームをさまざまな局面によって構成されたものとして捉えていることは明らかである。局面の構成を大枠でとらえると速攻と速攻の防御,組織攻撃と組織防御 の4局面となるが,より具体的に局面を細分化した時,各国によって考え方の違いが見られた。そ こで局面は攻防が対応関係になっていることが, 構造上理解しやすいこと等を考慮して,具体的な局面の構成を試みた。その結果,速攻とその防御 はそれぞれ4局面,組織攻撃と組織防御はそれぞ れ5局面の18基礎局面に構成されるのが適切であ ると考えられる。
また,その18の基本局面に加えて,特定局面は攻防それぞれ6局面の12局面に構成されることが適切と考えられる。
引用文献