大西武三
市村志朗
本稿を起こすに至ったのは、日本が3大会ぶりに出場したのであるが、バックプレーヤーは190cmを越える大型が活躍する中で、日本の小柄な選手が活躍したのは大きな収穫であり、今後のプレーヤー育成のモデルになりうると感じたからである。どんな点がよくて通用したのか関心を持たざるを得ない。本来技術や戦術、体力など多視点的に分析、考察しなければならないが、この大会でのシュート58本を抜き出し観察しているとシュートのリリースのタイミングに違いが見受けられることから、本稿ではリリースのタイミングに観点を絞って分析してみた。
身長や得点などはIHFのホームページよりダウンロードした
下図はライトバック(以下RB)の身長と得点(1試合当たりの平均得点)を示したものである。黄色の部分は平均の得点を高いものから10人の記録である。170cm台、180cm台、190cm台にそれぞれ1人、2人、7人である。170cm台から次の180cm台まで8cmの差があり、BKとしては特殊なポジションにいる高得点者であると言える。
前述した高得点者10人のデータである。攻防の中でのシュートとし、7mスローは除外している。左からトップ10人をシュート成功確率の高い順に並べている。この中に日本の徳田(以後S.T)選手が入っていることは特筆すべきことである。シュートの内容がグラフで色分けされているが、9mはほぼフリースローライン後方からのシュートであるが、6mについてはその内容はいくつかのシュートが含まれる。ポストシュート、ゴールエリアライン近くからのシュート、そしてディフェンスのまえからのミドルシュートが含まれる。ここにあげた10人も6mの中に日本で言うミドルシュートが含まれていると推察される。S.Tの7試合のシュート数は58本でゴールは32本である。このシュートを各試合のビデオから観察するとミドルシュート、ロングシュートは22本、ゴールは13本で成功確率は6割近く高確率である。身長170cm台の選手が2m級が壁となって防御するなかで、シュートを決めることは並大抵でないことが予測される。
なぜシュートが入るのか、小柄な選手がバックとして活躍するためにはどのようなことを考えなければならないのか、技術、戦術、体力などさまざまな視点で分析することが必要である。S.Tをモデルとしてその手がかりを考えることが必要と思う。
手がかりの一つとして、リリースのタイミングをみた。比較したのは9mシュートがもっとも多く得点したマケドニア(MKD)のLAZALOV Kinil(以下K.L)選手である。K.Lは193の身長であり、S.Tは178cmと15cmの差があることから、動作のクイックさは、おそらく相当違うだろうと思っていたが、はっきりとした差が出た。下の表に踏み切り足が床から離れた瞬間からボールが手から離れた瞬間(リリース)までの時間(コマ数)をタイムコードを挿入し調べたものである。(映像のコマ数は、日本と違って1秒間に25コマである)S.Tは4コマ目で離れる回数がもっとも多い。K.Lは7コマ目が多く、離れるタイミングが違っていることがわかる。図1は、その様子を今大会でシュートしたものの中から一例を示したものである。
最終判断とは、どのような動作で、どのようなコースに、どのタイミングで、シュートするかという最終的な判断である。
K.Lは踏み切りからリリースまでが7コマが最も多く、0.28秒である。最終判断は反応時間を考慮すると踏み切って相手を見てからと考えられる。おそらく、他の大型のシューターも同じ傾向と考えられる。
S.Tは早い段階で判断し、素早くリリースすることが、一般的なロングシューターと異なるタイミングとなるために、ディフェンスやGKの習慣的な判断を狂わせ、予測しにくくさせていることが考えられる。一方S.Tも早い段階での判断を強いられるために、より高度な予測能力が求められることになる。
ジャンプシュートの際、空間のどのポイントでボールをリリースしているかは大変興味深いところである。恐らくディフェンスやゴールキーパーの対応状況により、そのタイミングは異なっていることが予測されるが、個人が持つ一つのタイプもあることも考えられる。
表2は空間のどのポイントでリリースをしたのかを見るために、全滞空時間に対してリリースするまでの時間の割合をを示したものである。
滞空時間の算出方法は、ビデオ画面上で離地してから足が床に着地するまでの時間をコマ数により算出する。その後、そのコマ数より2コマ差し引いて滞空時間を算出している。2コマ差し引く理由は、踏み切り足が床から離れる瞬間は足が伸びているが着地は右足で脚が曲がった状態でなされる。離地の瞬間より重心が低い状態で着地するために、着地を離地と同じ条件、則ち脚を伸ばした状態で着地すると考えて2コマ差し引いた時点を着地として、滞空時間を算出してみた。
S.Tは表1の調査個数より5個少ないのは、着地の瞬間ががディフェンスに隠れて分からないものを除外しているためである。
S.Tは32-35パーセントでリリースしていることが多いことが分かる。空間では重心は放物線を描くことから、ジャンプの頂点に達する前にリリースしていることが分かる。映像を観察してみても、リリースした後まで身体が上昇していることが見て取れる。
K.Lは41-44,53-56%でのリリースが多いことから、ジャンプの頂点あたりを中心としてリリースしていることが分かる。
図2はリリースポイントがもっとも多く現れる割合を図に示したものである。
S.Tは打点の高さより、相手が対応する前に素早くシュートをすることを優先し、大きいプレーヤーK.Lは相手の状態をみて、高い打点でシュートしようとしていることが伺える。もし小柄なプレーヤーが大型のプレーヤーと同様のことをしたら、相手にも対応する時間を与えることになり形態的不利をもろに受けるのではと推察される。勿論のノーマークになっている状況では、十分に相手を見てシュートもできる。ここでは68-71%に1本あるが、このシュートはジャンプして相手を見て最終判断をして打ったシュートと考えられるし、映像からそう見える。
日本人のプレーヤーは世界のトップレベルで活躍するプレーヤーに対して形態的不利は免れない。それを何で補うかは重要な側面である。今回の調査では、その一つの要因としてリリースのタイミングが関与するのではないかという示唆を得られたと考える。