オーケストラが演奏するのを考えてみよう。プレーヤーの前には,必ず楽 譜が置かれる。各プレーヤーは楽譜の下に考えがまとめられ,演奏が実現す る。1人でも違った楽譜を演奏すれば,音楽にならない。

チームプレーも全く同じである。ボールゲームは相手との相対的な関係で なされるので,音楽のように「その昔しか出してはいけない」ということは ないが,個々それぞれがゲームに対する共通の考え方を持って臨まなければ, よい結果を生み出すことはできない。プレーヤーには個性があり,同じ技量 の持ち主ばかりではない。またゲームに対する考え方も異なっている。

そのように多種多様であるプレーヤーが,自分の力を十分に出して良いゲ ームをするためには,どうしても皆に共通した考えを持つことが必要である。その共通した考えが戦術である。よくあることだが,各個人の力量をみる 非常に高い者が集まっているチームが,実際のゲームでは勝てないということがある。これは個々の技術を発揮させる戦術がないためである。また逆にそれぞれの力はないのだが,ゲームでは非常に強いというチームがある。これは個々の力量を十分に引き出させる戦術があるためである。チーム戦術は個人の技術によって実現されるものであるので,いくら良い戦術を構想しても,それに対応する各個人の技術がなければ実現できるものではない。逆に各個人の技術が非常にすばらしくても,戦術の受皿がなくては技術を発揮することはできない。技術,戦術とは,そういう面においてお互いに支え合うものである。

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