大西武三

オリンピックソリダリティ講習会から

今回の指導法は6月の下旬から7月の初めにかけて男女ナショナルチームをでモンストレイターとして開催されたオリンピックソリダリティ講習会から述べたい。

講習会の意義

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世界的な指導者であるデンマークのアランルンド氏を迎えての講習会が終わったが、大変に有意義な講習会であった。今迄も世界のトップ指導者を何人も招いて講習会を開催しているが今回は特に有意義であった。

受講者は日本のトップレベルを指導対象としているしているものから低年令層を教えているものまで様々であったが、全ての指導者にとって何かを感じさせる講習会であった。コーチの指導能力の高める方法のひとつに研修会やコーチ会議にでるというものがあるがあるが、今回も多数の指導者に参加していただきました。

この講習会を契機として日本のハンドボール指導のレベルが向上すること間違いないと思っております。どんなシンポジュームや講習会でも個人の要求にぴったっと合う内容のものはそう望めるものではない。ただこのような講習会から自己のコーチングフィロソフィーやハンドボールフィロソフィーの確立に向けて十分に刺激を与えたものと思います。

今後とも指導者の皆様方においてこのような講習会に積極的に参加され、勝負だけでなくこのすばらしいハンドボールの世界を一つの文化として共通に語れるようになりたいものだと思います。

ルント氏の略歴

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ルント氏は大学まではサッカーをしていた。大学に入ってスポーツ教師の資格を取っている。スポーツ種目は広く修得するがその中でも専門的な種目としてハンドボールとサッカーを選んで修得した。その後ハンドボール連盟の開催するハンドボールコーチの資格取得のための講習会を4つのレベルに渡って終了しクラブのコーチになっている。

連盟の開催する講習会のレベルは年令別に2歳刻みで12のレベルに分かれており、ある年令の資格を取るためには下のレベルから順番に取っていかなければならない。従ってトップレベルのコーチになるためにはこの12のレベルの講習会を全てパスしなければならない。

指導体制の一貫化が計れるようになっている。ルント氏は大学にいっていたために最後の4つのレベルだけでよかったそうである。日本では、選手としてハンドボールをやっていなかったものがナショナルコーチにまでなることは考えられないが、デンマークでは指導者としての資格取得がその道を開いている。

コーチ経歴としては女子ナショナルチームの監督、ステルネン、GOGクラブ監督、1988-1990はサウジアラビアの監督をして北京アジア大会では3位に入賞させている。 職業としては現在学校スポーツ連盟の理事長をしており国家から給料をもらっている。6年前まではオデンセ大学の教授であった。

現在のハンドボール関係の役職としては、GOGクラブの顧問であり、バルセロナの会議でIHFのCCMのメンバーに選出されている。GOGクラブはハンドボールのチームが32チームある大きなクラブで約10人一つのチームとして指導者が二人ついている。蒲生監督の率いるナショナルチームがお世話になっており、今年も女子ナショナルチームがお世話になる予定である。

人柄

私は8日間ルント氏とご一緒させていただいたが、何と言っても人柄がすばらしい。昨年ジュセルドルフで開催されたIHFコーチシンポジュームに参加して初めてお合いしたが、温かい人柄で、日本に招請したい気持を強く持っていました。

幸いアジア担当のCCMメンバーであり招聘が実現した。 実際の講習では、実にエネルギッシュで、その情熱と的確なコーチングには感心させられた。ユーモア、叱咤激励、雰囲気を盛り上げる掛け声等、コーチャーとしての適性の実例を見る思いであった。

デンマークという背景

私にとってハンドボールとデンマークの結び付きは、ハンドボールの歴史における発祥論争である。

ハンドボールの発祥はドイツと決まり文句となっていた。20数年前であろうか大阪の馬場太郎先生がハンドボールの発祥の地はデンマークであると学会発表され、驚かされたわけであるが、19世紀の初頭ヨーロッパのあちらこちらでハンドボールに似たボールゲームが行われており、正式な発祥国の定説は無いが、1906年のルールブックがデンマークに存在することは発祥国としての一つの手掛かりである。

公式競技として世界に発展の足掛かりを作り普及に力を注いだのはドイツであることは現在にあっても確かな事である。 ところで デンマークにおけるハンドボールの位置はサッカーに継ぐ第2のスポーツである。ルント氏は言っている。「ハンドボールはデンマークにおいては文化である。誰もが日常に会話する話題である」と。

デンマークにおいては日本での野球や相撲のようにだれもが話すスポーツであるということである。 競技力の面から見ても今回の機関誌「国際情報の世界の競技力ランク」で分かるように1993年は2位に位置する強豪である。また1993年までの55年間でも5位にランキングされる国である。人口は名古屋より少ない500万人でこれだけの成果をだせるのであるから、ハンドボールに対する背景は大きく豊かであることは予測できたが、ルント氏の今回の講習会で明確にそのことは確認できた。

ルント氏の指導の特長

日本は学校体育でスポーツを学んできた。またその延長上にある部活動をとおしてスポーツを学んできた。どちらも教育の一環であり、スポーツを通しての教育に重点が置かれ、現在では変わってきているがスポーツそのものを学ぶことはその次に置かれる傾向にある。

先生もスポーツそのものを本格的に学んできたわけではない。教員の免状を取得する際の実技の単位は最低5単位ですむ。これで本格的なスポーツの指導の方法が修得できるものではない。後は自分が課外活動等で修得してものを経験を指導に生かしていくことになる。

それに対してルント氏の指導は前述したとおり大学や連盟の講習会でハンドボールそのものの指導法を学ぶことになる。日本の部活動は、経済面からはボランティア活動に近いが、日本の部活動に変わるものがヨーロッパでは地域のクラブである。そこでの指導者というのは、クラブから報酬をもらう以上、指導力が問われることになる。

また子供も指導者がいやならクラブを止め、よそのクラブに移ったりすることが可能である。ルント氏は言っていたが子供の指導で大事なことは指導が終わったときに子供が喜んで、笑顔で家に帰ってくれることである。そうすれば親にもクラブでの楽しい出来事を話してくれる。

ヨーロッパではハンドボールを年令に応じて、専門的に教えることが要求され、その能力が問われる訳である。 「日本は選手の規律(decipline)がすばらしい。ただ戦術がない」とルントは言っている。2年間サウジアラビアの指導をしているときに日本のチームを分析し、またコート外での日本選手に接してのルントの感想である。

この言葉は日本的指導法の長所と欠点を簡潔に言い当てている。 日本の指導法は人格を磨くのに適していおり、これはおおきな長所と言えるが、スポーツそのものを教えるにはまだ不十分であり謂わば経験主義的なものといえる。 そこで、今後の日本の指導者像としては是非とも日本的指導法の長所を生かしながら、ヨーロッパ的なスポーツそのものを専門的に指導できるという長所を加えていかなければならない。

この実現に向けての第1歩が体育協会とハンドボール協会で共催する公認スポーツ指導者制度である。この制度の完成度はまだ不十分かもしれないが、皆様の理解の元に全ての指導者がこの資格の取得され、専門的なハンドボール指導の道が開かれる事を願っている。

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ハンドボールのフィロソフィー

ルント氏はハンドボールのゲームはどのような構造をしているのか。これを知っていなければ良いプランは作ることが出来ないと言っている。デンマークでのハンドボールのフィロソフィーとして話してくれたものが次のようなものである。このフィロソフィーに基づいてゲームやトレーニングが行われる。以下講習の内容を述べてみる。

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ハンドボールは何かと考えた時、ゲームの局面を分析してみようと考えた。昔の教本には4つの局面があると書かれている。

  ゲームの局面

  1 セットオフェンス
  2 一人での速攻
  3 二人以上の速攻
   選手;6人のCP+1人のGK/5人の交代者

1988年この原理は間違っており、20年前の原理に過ぎないことが分かった。 ハンドボールはサークル、あるいは車輪で表すことが出来る。

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  第1局面 インターセプト/ブレークアウト
(interception/breaking out)  

ハンドボールをするものにとってはボールが最も好きでありまた最も重要である。ハンドボールは14人でやるがボールを持っているのは一人である。このボールをに対するプレイを教えるとき反則して止めるのは最も簡単です。ボールを反則しないで取ることは大変に難しいことです。

ボールを取る。ボールを取ったらすぐに速攻すると言うのが原則です。

ゴールキーパーはシュートをセーブすることはインターセプトしすぐにパスアウトしなければなしません。 このことから6+1と言う考えは間違っていおり7人で同等であることが分かります。

第2局面 攻め上がり
      (moving up the court(bounce/pass)

 

ディフェンスから攻撃に切り替わり攻め込んでいる局面である。

○この局面では非常にスピードが大事である。

○1、2人で速攻するのでなく7人全員で速攻するのが大事であり厚みと幅が大事である。初心者にはドリブルを教えなければならない。子供には走りながらのパスは難しい。

立ったままのパスは使いますか。使わないのに何故練習するのですか。向かい合ったままのパスも見られません。走りながらのパスやドリブルが必要になってくる。

第3局面 シュートゾーンへの接近            (Arriving into shooting zorn)

パスをして9mラインについてパスかシュートの判断をしなければならない。この局面は非常に重要である。この段階では防御はまだ組織されていない状態である。4人しか返っていないかもしれない。数的に有利な状況が出来ている。またディフェンスに戻るのに平行移動して返っているわけでなくクロスしたりしてスペースが出来ている。そこを攻めなければならない。

第4局面 組織攻撃 (Organized attack)

  皆さんはこの練習に多くの時間を費やしませんか。1:1、2:1に時間を多くさいていませんか。日本の指導書はここに重点がおかれていませんか。

第5局面 戻り (Return into defense)

10年前までいろんな練習があったが、1988年ソウルオリンピックでは韓国やロシアの速攻をしているのに、防御法がわからずただ見ているだけであった。速攻に対するディフェンスを教えた方がよい。

第6局面 組織デフェンス( Organaized defense)

  第1、3、5がデンマークにおける新しい局面である。いままであった教科書はすべて捨ててしまいました。

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指導する際6つの局面のトレーニングを考えなければならない。各々の局面を練習しなければならないが全てを毎日するのではなくある期間の内に全ての局面の練習をしスタートする。

通常ゲームは70回から80回の攻撃回数がある。それぞれ45回ずつボールを持つことが出来る。子供の場合は60ー70回の攻撃回数があり各々のチームで30ー35回の攻撃回数がある。これらの攻撃回数のうち一回一回に6つの局面がすべて含まれていると思いますか。含まれるわけではない。

例えば第2局面でインターセプトされると第6局面に返らなければならない。中間の局面はスキップすることになる。考えられることは40回すべて必ずインターセプトする状況になっていると言うことである。デンマーク、エジプト、マレーシアでも多くの指導者は机上で練習プランを立てる。80パーセントはボールを持っている状況での練習を考えます。

デンマークではどうしてインターセプトするかが重要である。そこで韓国のハンドボールの哲学をフォローすることになる。失点は怖がらず得点をすることに力を注ぐ。しかし我々は韓国に勝ちたいので戻ってくる最中(第5局面)にも力を注ぐことにした。

ロシア、韓国、スエーデンは30パーセントは速攻であることが分かった。速攻の防御に重点をおくことが重要である。ライフ ニコルセン(デンマークの監督)がディフェンスに戻る時のディフェンス法を考えだした。

もう一つ重要な局面として第3局面がある。ロシアは2waveの速攻を考えだした。(これは2次的な組織的な速攻)我々は3waveの速攻を考えだした。ゴールキーパーがインターセプトしたら 全員でパスをして攻め上がっていく。ディフェンスが組織されていないときに攻め込む。これをするためにはGKを組み込まなければならない。このことによって第3waveの速攻を組み立てることが出来る。

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