大西武三

先般、山形鼎の高校指導者・佐藤功氏より「全国高校総合体育大合(ハンドボール)出場校の活動の実態に関する調査研究」が送られて釆た。これは第19回全国高等 学校体育連盟研究大会(第一分科 会)「スポーツの項点を目指して」 のテーマの下で2月初旬に発表されたものである。

平成5年のインターハイに出場した全チームの指導者にアンケー トを実施している。この調査から、インターハイを目指す指導者の実態が良くわかり、興味深いものになっているので、今回はこの調査研究を皆様に見てもらうことによって指導法に代えたい。  

調査研究を読ませていただいて、 私なりの1、2の感想を述べさせていただき、指導法の最終回とさ せていただきます。機関誌編集担当者より、指導法を書くように依頼を受け、やってまいりましたが、 今3月は役員改選期であり区切りを付けさせていただきます。内容 があっちこっちと飛び、筋の通らないままで終わってしまったことをお詫び申し上げます。

指導者について

「コーチ10年は曲がり角」と言われるが、そのことがこの調査でも良く現われている。10 年をピークに指導者の数が激減している。高校教師は課外活動が主な業務でないが故に、年を重ねる事に、年相応の仕事を求められ、現場での直接の指導は出来にくいものとなる。

若いときはなりふり構わず、 指導に情熱を傾けることが許されるが10年も経つと「それだけでは いけないよ」という周りからの注 文が出てくるであろう。

仕事上から、自分が属しているハンドボー ル協会から、家庭から、あるいは自己の情熱や体力の衰えからと個人によっては理由は様々であるが、 徐々に現場を離れざるを得ない状 況が押し寄せて来る。

そのような 社会的な環境にあって20年、25年と直接指導しておられる指導者がこの調査から多くおられることが わかる。その情熱には敬服せざる をえない。

2足のわらじどころか 3足、4足と履きながら奮闘して おられる姿が浮かんできます。また、指導者として不利な条件であると思われる「担任を持つ」「ハンドボールの競技歴がない」 「専門が体育でない」などの条件をクリアしてハイレベルのチーム作りをしている指導者がおられることは、同じ条件を持つ指導者に勇気と希望を与えるものでもある。

練習時間について

 練習の時間や頻度と言うものは、 単に勝つための一要素だけでなく、 選手や指導者の生き方を左右する大きな要因と考えられる。高校3 年間でインターハイで優勝を目指す場合、誰もがやるような事をしていては勝てないのは明白であり、 練習の量や質が問われるのは当然である。この調査でも強いチーム ほど練習時間が長い傾向になっている。

勿論、その中でも、2時間 30分以内の練習でインターハイに 出てきているチームもかなりの割合で見受けられるが、いずれにしても平日これだけの時間を練習現場に立ち合い指導されているというこがは大変なことであり、その情熱のなせるわざには感服する次第である。

適正な練習時間とは

 適正な練習時間というのは一体 どれくらいであろうか。自分が選手を預かった期間を一つのスパンと考えるなら、中学校や高等学校では3年である。通常、インターハイを目指すよ うな指導者なら3年(実際には2 年少々)の期間でトップレベルのチームに育てるべき練習を考えるであろう。この短い期間での強化となれば、目いっぱいやらざるを得ない。

これを指導者から見た短期スパンと考えるなら、選手から 見たスパンと言うものがある。これはその選手が将来にわたってハ ンドボールを続けるであろうことを見越したスパンである。

10年、 20年と言う長期のスパンが考えられる。選手の立場から言えば、あるいはナショナルチームを預かるような立場から言えば長期スパンで一貫した指導体制の中で育ててもらいたいものだと思うのは当然の事であろう。

普及と強化はハンドボール界の大きな柱であるが、本来強化は普及の中から生れてくるべきものである。小・中学校における義務教育期に出来るだけ多くの者にハンドボールに親しんでもらい、高校期や大学期なれば、自己の能力に よって生涯スポーツハンドボールと競技スポーツハンドボールに分 化して進んでいくべきものであろう。

日本の練習量は世界一?

英国のラグビーの著名な指導者 ジム・グリーンウッド氏が来日し、 指導した3年間の感想をラクビーマガジンに寄せているが、その中で「日本ラグビーの第1の特色はその練習量の多さです。間違いなく世界一の練習熱心な国であると断言できます。

ごくごく普通 の大学ラグビーの選手が大学在学中に行う練習量は、私が11才でラグビーを始め29才で引退するまでの18年間より多いのです。これだけの熱心さと練習量をもってして 世界一のラグビーチームが出来ないはずはありません」と述べてい る。

またサッカーでの小学生の練習量の国際比較の研究もありましたが、やはり日本がヨーロッパや諸外国に比べてけた違いに練習量 の多いのに驚いたことがあります。 短期スパンで勝とうと思えば、これはやむを得ないことである。

指導者や選手の夢がこれによってしか実現できないことはよく分かっ ている。しかし私が心配するのは、 この練習量の多さによって失うものも多いのではと思うことである。

一つは短期スパンの猛練習で精神的なあるいは身体的な問題からそのスパン後にハンドボールを止めてしまったり、意欲的な取組みが出来ない例である。 二つ目の問題として、進学等を考えれば強いチームに入ってやりたくても飛び込めない者が多くい るに違いないと思われることであ る。その中には将来のハンドボールを背負うはずの人材も含まれているかも知れない。

学校と地域のスポーツ環境

誰もがスポーツは好きであり、 運動能力のある者は尚更である。 小学校、中学校の義務教育期で週 3〜5日1〜2時間位、ハン ドボールの技術や面白きを指導してくれる環境があれば、恐らくもっともっと多くの人がハンドボールを楽しむに違いないと思われる。 そのためには学校教育だけでなく、 学校や地域の施設を中心とした社会スポーツとしてのハンドボールを今後はもっと考えられなければならない。

短期スパンの猛練習の積み重ねで選手を育てるというのは、日本のスポーツ社会が作り出した一つの産物である。しかし、このことによるひずみも生じていることも確かである。ハンドボールの豊かな社会を目指そうとするとき、練習時間というものを契機として私達が考えるべきことが多くあるのではないだろうかと思う。 (終)

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