スポーツには喜びがあり,感動がある。一つの成果を得るまでには,涙や汗の努力がいるが,その努力は必ず喜びや感動を味わわせてくれる原動力となる。そして,喜びや感動は一瞬のうちに終わるものかもしれないが,その時にはさらなる目標へと向かうエネルギ ーが自然と湧き出ているものである。

 指導者が,そのようなスポーツ・ハンドボールに携わった動機は何であれ,選手とともに同じ目標に向かい苦楽をともにする経験は,誰にでも与えられているものでなく,一生のうちでもかけがえのない財産を与えてくれるものであろう。

スポーツの指導は,世間一般の見方として,経験さえあれば誰にでもできるものであり、そこに高い専門性が必要とされるとは思ってもいないのが現状ではなかろうか。

スポーツというのは,指導者がいなくてもやれば楽しいものであり,やるほどにうまくなっていくという側面を持っている。指導者がいても「世話役」であったり,「叱咤激励役」であるだけでも結構やっていけるものである。しかしこれでいいというのでは,本来スポーツが持つ奥深さや素晴らしさに触れことはできないであろう。やはりチームがことを成すには,指導者の存在は絶対的に必要である。

現代は多様な欲求をスポーツに求められる時代である。競技スポーツ,仲間作りのスポーツ,健康スポーツなどいろいろある時代である。指導者には,構成員の目的に応じたチーム作りと技術指導が間違いなくなされる力量が求められている。そこで問題になるのが,間違いなく,それらを可能にする専門性を持っているかどうかである。

スポーツの指導は,ピアノを習うような教則本がなく,これといった方式のないのが現状である。しかし,スポーツ活動は人間に関する諸科学の総合されたものであり,指導の適正さを期すためには,非常に多くのことを学び,対象に応じて具体的な手段を講じていかなくてはならない。これは大変なことである。職業に付随して指導されている方は別として,ボランティアとして活動されている方に,そこまで要求することは困難なことかもしれない。しかし,今後スポーツが発展し,指導者の社会的地位を高めていくためには,指導に携わるすべての人が,ハンドボールの指導の専門性を身につけなければならないと思われる。

この教本は,国家認定制度である地域スポーツ指導者(スポーツ指導員・ハンドボール)と,競技力向上指導者(コーチ〔C級〕・ハンドボール)の専門教科の教科書として編纂されたものである。

公認された指導者となるためには,共通教科の履修が必要である。共通教科は,スポーツの全般の指導者として身につけるべき知識一心理学,生理学,トレーニング学など一を学ぶようになっている。ハンドボールをより確かなものとして,また,現代人を納得づくめで指導するためには,専門教科だけでなく,共通教科の学習も必要なことである。

全国のハンドボールチームの中には,指導者のいないチームも多くあることかと思われる。この本は,指導者を対象としてだけでなく,多くの選手の教本として利用していただくためにも編纂している。

選手は教わるという立場でなく,指導者の立場に立って練習に励んでいくことが,技術上達の早道でもある。ぜひともご利用いただきたい。

日本ハンドボール協会には,「ハンドボールテキスト」の名称での小冊子を発刊したことがあったが,本格的な指導書は初めてである。指導体制の一貫化が叫ばれる中での発刊は意義深いものである。

執筆者は,指導委員会のメンバーを中心とした。今後は,読者,ハンドボール関係者の助言により,よりよい指導書として愛読していただけるようにしていきたい。

この教本を発刊するにあたり,大修館書店の青木三郎氏には多大なご助言とご支援を願いました。ここに編者を代表して厚くお礼申し上げます。

平成4年10月

大西武三

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