はじめに

「プロンジョン・シュート」と聞けば、誰もが、まず先にあのサイドからのシュートを思い浮かべるでしょう。所謂、「右利きのプレイヤーが逆サイドで左に身体を大きく傾けて放つシュート」です。そして「わずかな間隙を利用してゴールエリア内に倒れ込み、あるいは飛び込んで行うシュート」、「跳び込んで身体を横にし、角度を大きくして打つシュート」または「センターや左右のB・C・プレイヤーがジャンプ後にディフェンスがジャンプしたのを見計らい、ディフェンスの隙間から撃つシュート」となどです。それらの「プロンジョン」はビボットマンやGKにも使用されています。しかし、その名前の由来と聞かれると答えに窮します。そんな理由として今回、名前の由来探しをして見ました。 

 

 1.由来の調査資料について

由来となれば日本ハンドボールと関係が深いと思われる情報や記事など、交流の深い国からと思い、そこで、先ずは日本ハンドボール機関誌から探してみました。そこには、ルーマニア、ドイツ、フランスなどの国際試合・遠征時の交流やハンドボール情報として「ドイツ・ハンドボール・ボッヘ機関誌」「フランス・レキップ紙」などから邦訳された記事が豊富に記載されていました。中でも、1960年にルーマニアのチームが来日し各地で交流(10試合)を行ったことや初めて世界の舞台に立った1961年の第四回男子世界選手権と1962年の第2回女子世界選手権後の各地欧州遠征においての試合や合同練習への参加などの記事からヒントが得られました。
その中で、当時、世界トップレベルに位置するルーマニアとの交流が最も多くありました。そして、その後は1968年にニコラ・ネデフ氏(ルーマニア・コーチ)、1984年ヨアン・クンスト氏(ルーマニア・元コーチ)が来日し、指導を受けています。1981年にはクントス氏著書の日本語翻訳本が出版されています。 

                                                                                                                                    

2.日本で「プロンジョン」が使い始められたころ

ヨーロッパ遠征の帰国後の談話でも、1961年の竹野選手の「写真などでは、右投げだったら右の方から出ていってシュートするのを見たが、実際にやるかなと思っていたら、サイド攻撃やるにしても、本当にサイドから中に飛び込んで得点するのでびっくりした。ぼくもやりたいなと思った」と、これは「プロンジョン」を初めて直に見た感想かと思えます。これが国内でのプロンジョンのスタートとでしょう。そして、1962年には北川浩氏(女子ヘッドコーチ)の「ルーマニアのコーチに「プロンジョン」を習い持ち帰ったもの」と書かれ、1968年にはハンドボール競技、技術調査表(ルーマニアスポーツ病院方式)を使った技術報告の書があります。そして、1963年にはすでに高校選手もサイドからのプロンジョンを行い、その監督の口からも「プロンジョン」の言葉が発せられています。
この様なことから、1961,62年には「プロンジョン」のプレイが実行され、言葉が使われていた事がわかります。さらにルーマニアとの深い交流から「プロンジョン」を耳で聞き、目で見てプレイを行ったことから、この言葉はルーマニア語ではと推測されます。

 

3.プロンジョンの語源について

「プロンジョン」は国際的にあまり聞くことのない言葉です。それはなぜなのかを考えてみます。「プロンジョン」に関わる国内のいくつかの論文と近年使われる言葉の英訳には(Pronsion Shot) 1975, (PLUNGE IN SHOOT (diving shoot)) 1996, (plungeion shoot), (Prongeon shoot(flying squirrel shoot))などが使われています。これは「プロンジョン」をそのまま使ったり、スペイン語を交えて表現しています。
動作をそのまま表す言葉として使われる、スポーツでのプレイ表現は各国の言語で、それぞれ表されます。だから、「飛び込むやダイブする」同じ意味する言葉がバラバラなのだと思います。国際的に広く通用する一つの固有名詞があればわかりやすいのですが。その点から言えば、「プロンジョン」は日本で、しっかり名詞化された表現だと思います。
ルーマニア語でのプロンジョンは「plonjon」と書きます。意味は動作に関するもので➊ 何らかの意味で飛び込むという動詞の動作での飛び込み,ダイビング,身体を投げ出す ➋ (前のめりに)落ちること,転落、急落➌ 〖サッカー〗 (ゴールキーパーの)セービングがあり、「plonjon sărit」と書き、飛び込みジャンプとなります。 

 

 4.プロンジョンシュートの技術内容ついて

クントス氏の日本語翻訳書(ハンドボールの技術戦術)で記載された内容からプロンジョン・シュートの経過の変化と言葉の意味を見てみたいと思います。それは現在、プロンジョン・シュートとして代表するアクロバット的な野田・ムササビシュートに結びつく「プロンジョン」の流れが見え、それは各技の組み合わせがもたらしたものと言えます。
「プロンジョン」が最も多用されるビボットマンの動きから右サイドから放つウィガーのシュートまでの流れです。
ここでは右利きプレーヤーがアウトサイドの空間から攻撃することをモデルに置き、プロンジョン・シュートの形成の流れ・経緯が大きく次の6つのテックニック動作に分けられています。

5.各技術の説明  

 

6.左サイドで行われるプロンジョンシュートについて 

左サイド・プレーヤーのプロンジョン・ジャンプ・シュートの違いを見てみたいと思います。このプレイを使う海外のプレーヤーと日本のプレーヤーと比較してみると、まず、体格、ジャンプの高さ、飛び込む方向に違いが見られると思います。海外のプレーヤーはやはり大柄で、ジャンプは縦に高くして大きく横に身体を傾け、GKの前に飛び込む姿勢が特徴的です。それに対して、日本のプレーヤーは小柄で、ジャンプはゴールラインに沿い、中央に向かいます。その時、身体は地面に対して水平な姿勢を保ち、対空時間を長くするように飛び込みます。そして、さらなる努力・改善を駆使して野田選手のような体が床に落ちる寸前までゴールチャンスを伺うシュート、所謂ムササビシュートになったと思います。
このシュートは一時、逆立ちに近い姿勢から手が先に地面に落ちているのではないかと、騒がれましたが、NHKのスポーツ特集で超高速カメラを使いルール違反ではないことが証明されています。今で思えば、(野田の1mm)と言ったところで、ハンドボールにおいての取り巻く環境を大いに沸かせました。
「プロンジョン」には種々のタイプが存在しますが、ルーマニア発として、この左サイド・プレーヤーのプロンジョン・ジャンプ・シュートのみに「plonjon」を冠してみるのも大変面しろいのではと思います。ただ、最近のゲームではこのプレイがあまり使われなくなったと聞きます。しかし、まだ一部では残っています。若いハンドボーラーには挑戦してもらいたいです。

おわりに

プロンジョンシュートの由来について述べてきましたが、一つのプレイに愛称を付けた例として、先にあげた「エレト」に対して「シャセ(Šase šut」という言葉があります。これは当初、肩の上から色んな状況においてオーバーハンドで投げることを、もとにしている言葉ですが、最近では主な使い方として、プレーヤーがフック(ボクシングでいう、相手の側面を打つ位置)の高さからスタンディングで突然放つ一種のシュートに対して呼んでいます。
また、同様な例として、初めは「空間キャッチ」のプレイも「スカイ・Wスカイプレー」になり、フランスでは「カンフー」、旧ユーゴでは「ツェッペリン」と呼ばれています。
世界ではまだまだ、一つのプレイに対しての愛称がたくさんあるかと思います。プレイをする側も、それをみる側にも、楽しく、興味を抱かさせるわかりやすいネーミングがたくさん生まれてほしいものです。「嗚呼、プロンジョン」と共に。

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