2 改訂小学校指導要領の内容の考え方について

第1回研究集会は、1998(平成10)年に開催され、昨年で第14回目を終えましたが、これまで授業提案は合計27件ありました(資料1—表1を参照のこと)。その間、特に小学校の指導要領は、第1回大会の開催年である1998(平成10)年、次いで第11回大会の開催年である2008(平成20)年に改訂されています。この2回の改訂の前、つまり1989(平成元)年に改訂された指導要領までは、ボール運動の主教材とされていたのはバスケットボールとサッカー、そして内容の取扱いに示されていたのはソフトボールだけでした。しかし、今回の改訂までのほぼ20年間に渡る指導要領の内容の変遷は、球技種目の多彩な広がりに代表されるように、生涯スポーツを目指そうとする現代的な要求を受けたものと考えられます(表1、表2,表3を参照のこと)。

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特に、今回の改訂では、高橋(2007)の説明を参照にすると、「何を習得させるか」という学習内容の視点からカリキュラムが系列的に構造化されているのが分かります(図1を参照のこと)。

z1つまり、小学校1年から4年までは、基礎的な動きや遊び方を身につけ、小学校5年から中学校2年までは多様な種目を共通に学んで自分に適した種目を見出し、さらに中学校3年から高校3年までは自分に適した種目を選択して深く学ぶことが求められています。このように2学年ずつ学習する時期がまとめられているのは、学習内容を確実に身につけさせるためには一つの単元に十分な時間を配当する必要があるとされているからです。

さらに、一定の種目に偏らずに、ボール運動を楽しく行えるように、ボール運動に共通した戦術的な動きを習得させるために、カリキュラムのスコープとして、球技の分類論が初めて採用されました。すなわち、小学校ではゲーム・ボール運動が「ゴール型」、「ネット型」、「ベースボール型」の3類型で示されました(表4を参照のこと)。

そして、以上のカリキュラムの観点にしたがって、低学年は、基礎的で基本的な動きの習得に焦点化し、「ボール投げ遊び」、「ボール蹴り遊び」、「鬼遊び」で構成されています。中学年では、3つの分類に基づいて,それぞれから技能的にやさしいボール運動が提供されています。例えば、「ゴール型」では、簡易ハンドボール(サークルハンド)、セストボール、簡易フラッグフットボールなどです。「ネット型」では、天大中小、プレルボール、ドッジボールなどです。そして、「ベースボール型」では、キックベースボールなどです。さらに高学年では、従来から位置づいてきたものが中心に提供されています。

つまり、「ゴール型」では、バスケットボールやサッカー、「ネット型」では、ソフトバレーボールやファウストボール、「ベースボール型」では、ソフトボールやTボールなどです。そしてこれらの類型にしたがって、ゲーム・ボール運動の内容が具体的に示されているようです(表5を参照のこと)。

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ここで、前回の改訂時には、ハンドボールという名称が国家基準性を有する小学校の指導要領に初めて登場しました。そして、今回の改訂では、ハンドボールは主教材に替わるものとして、それぞれの型に応じて取り扱ってもよい教材の筆頭に挙げられていることは特筆できます。

ここで、新指導要領におけるボール運動の分類項目名は一貫性がないのが分かります。それは、このボール運動の分類視点が不明瞭であるからです。このような分類論からは、情況を適切に打開する、各類型に特徴的な戦術上の動きかたを明瞭に引き出せるとは考えられません。しかもこの分類論は、決して新しい考え方ではなく、以前よりボール運動・球技を取り扱う際に基底にあったものと同じように思われます(表6を参照のこと)。

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筆者は、かなり以前より球技の分類論には関心があり、現在では、発生運動学を基礎にして、対決情況における戦術力に力点を置いた個人や集団の動きかたの視点から、「突破型」、「打ち返し型」、「投・打球型」の3類型(将来的には「球運び型」を含めた4類型)(表7を参照のこと)に分けています。

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そもそもの動機は、専門委員会の仕事を通じて、ハンドボールならではの特性と教材価値を浮き彫りにするためには、他の球技との比較が必要と思われたからです。そこではどうしても球技の構造的な特性をとらえることが必要不可欠でした。

このような視点を持つことで、確かな学習内容を引き出せると思ったのです。こうして、構造的な特性に照らして他の球技と比較して行くと、突破(ゴール)型の中でも、ハンドボールはボール操作が容易であり、ゴールエリアに設置されたゴールを目指し易いので、戦術の学習を目指した教材づくりに向いていることを明らかにできました。

現在もこのスコープを基本にして、下位分類を探りながら、カリキュラムの中身を研究中です。

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