さらに、ドイツでは、「技術—戦術的」行動という表記が多用されている。それは、個人戦術が技術と不可分の関係にあるからであるⅷ 。球技の技術は、「運動課題の合理的、経済的な解決のために、球技の活動の中で確かめられ、変化するゲーム情況とゲーム条件、ならびに選手の素質と一般的な競技力の前提条件に適合した仕方」ⅸ と規定される。したがってそれは、「ゲーム活動の決定的な基盤である。その最適な遂行のためには、順調に発展させられた体力、および協調能力は決定的な意義がある」ことはいうまでもない。そしてこの技術が、「成果の豊かな個人戦術の前提条件であり、それと緊密に結び付いている」という ⅹ。なぜならば、球技は、体操競技や陸上競技とくらべると、ゲームの攻防情況がたえず変化するので、それらの競技種目以上に情況を打開する戦術が前景に立てられ、技術的な習熟が個人戦術にうまく生かされる必要があるからである。そういう意味で、球技の個人戦術とは、技術をゲーム情況に適用する仕方、つまり技術のうまい使い方のことである。したがって個人戦術の特徴は、技術—戦術的行動における多彩な動きの組合せの中に示されよう。

すでにデブラーは、「ある具体的なゲーム情況の中で、ある一定の課題設定のもとで起こる『捕』と『投』の組合せを全体として研究している。運動分析は、ここでは、可視的に与えられた行為現象を、その統一され、分解されない、現実の実施において対象にする。比較考察法の中で、“できばえのよい”組合せの本質的な特徴がはっきり示される」ⅺ とマイネルは述べている。この技術的な特徴こそ、運動経過に示される先取り現象である。ここでは、自分が次に行なおうとする運動の先取り、すなわち運動投企の先取りが問題にされている。さらに実際的に、ある選手は、目下のゲーム情況を見抜き、個人戦術に基づいて、当の情況に含まれる他者の運動やボールの軌道等を先取りして、それらに自分の運動を合わせようとしている。そういう意味で、本来の個人戦術は、ゲーム情況と結び付いた運動の先取り現象との関連で、運動経過の中に技術—戦術的徴表として感得できると思われる。

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