さて、本題の「ゲーム情況」(Spielsituation)とは、球技論では、「味方や敵の位置どりと行動、および競技における用具の位置や運動方向によって連続して生じる目下の空間的—時間的な諸要因を組み合わせたもの」ⅳ と規定される。実際、変化の激しいゲーム情況にあって、それぞれのチームや個々の選手は、たえまなくある行動の仕方をとりつつ、そのつど、ある決断に迫られることになる。このようにゲーム情況は複雑きわまりないが、それが共通の徴表、もしくは類似の行為構造を示すので、「情況の階層」(Situationsklasse)を形成するのに適しているという。すなわちそれは、「ゲーム情況、あるいは行為の複合体をまとめたもの」であり、ゲーム経過の中で、ルールによって生じる標準情況もこれに加えられる ⅴ。したがって情況の階層は、それを見抜こうとする者の意図や関心により、様々な視点から形成されうる。とりわけ、ゲーム経過に発生する戦術の視点から形成された情況の階層を「ゲーム局面」(Spielphase)という。それは、「試合の経過の特徴的な諸分節であり、それらは質的に異なった徴表によって区分され、様々な戦術的な要求が課せられる」 ⅵことになる。 

それゆえ選手たちにとって、身につけておくと役に立つのが戦術である。球技の戦術は、「試合における選手たちの個人的、集団的な行動方法、行為、措置の総体」であり、とりわけ個人戦術は、「情況を解決するための、合目的的な行動」と規定される ⅶ。それぞれのチームは、こういった戦術を核として、自分たちの競技力の前提条件を十分利用し、敵方や味方の行動や、ルールおよび外的条件を顧慮しながら、できるだけよい試合成果をあげることに向かおうとする。このことが、戦術が球技の重要な競技力の要因と見なされる所以である。

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