2016年のリオ・オリンピックは、男子デンマーク、女子はロシアの優勝によって幕を閉じたが、そこに出場していた選手達の身長や体重、国際経験などを知ることは大変興味深いものである。そこで国際ハンドボール協会のホームページから入手した資料を手がかりに統計処理し、世界で活躍する選手の形態面、年齢、国際キャリアを統計処理し考察してみた。この大会には日本は残念ながら出場できていないが、比較のために、日本チーム選手の分析結果も示した。

1,研究資料の入手

1)2016リオ・オリンピックの資料:IHFホームページよりダウンロード

   選手数:男子172名(4名のリザーブ選手を含む)
    女子170名(2名のリザーブ選手を含む)

2)2015リオ・オリンピックアジア予選:日本協会ホームページよりダウンロード
    男子18名
    女子22名

2,分析結果

1)各項目の分析結果

表1 リオ・オリンピック選手の身長、体重、年齢、国際試合出場数、国際試合得点数

table1

表2 全日本選手の身長、体重、年齢、国際試合出場数、国際試合得点数

table2

3,結果と考察

1)身長

競技力は端的には技術×戦術×体力×精神力で表される。体力はパワー、筋力、持久力などの機能的な面と身長などの形態面に分けられる。身長は、形態的側面の一部であるが、競技力に大きな影響を与える。なぜならゲームでは空間的な支配も重要で身体の大きさは有利な条件にある。同じ技量の選手ならなら、より大きな選手の方が競技力に勝るであろう。身長はトレーニングによって伸ばすことができないだけに、大きく生まれた選手はそれだけで競技力に有利な条件を得たことになる。リオの選手は平均で男子が190を超え、女子は175を超えている。日本チームは男子で平均6cm,女子で約9cm低い値となっている。ゴールの大きさ、コートの広さが規定されている以上、相手より、競技力で上回るためには、この空間的劣勢をスピード、パワーなどの機能的体力と技術、戦術で上回る必要がある。

リオ身長

選手の平均身長が男子では190㎝、女子で175㎝を超えるが、その集団にあって、より高身長と言える選手はどのくらいいるのであろうか。標準偏差を平均に加えた数値がはいる区間の身長、則ち男子で195㎝、女子で180㎝から上の選手数えてみると男子で59人、女子で52人である。全体に占める割合では34.3%、女子で30.6%である。1チーム当たりでは高身長の選手は男子4.9人、女子3.1人である。
特別に高身長と考えられる男子で200㎝以上、女子で190以上の選手はそれぞれ22人(12.8%)、2人(1.2%)である。尚、日本には高身長者といえるのはこの基準では男子1名のみである。

図2図3

2)体重

体重は以下の通りである。女子ではノルウェー14名が登録されていないために156名の資料からの統計になっている。
 ハンドボール競技は身体接触が伴うスポーツであり、体重の持つ意味は重要である。例えば体重は相手より50%少ないとすれば、同じスピードでぶつかれば、体重の少ない方はひとたまりもなくはね飛ばされるであろう。対等に当たりあうためには、相手より倍のスピードでぶつからなければならない。身体の小さいチームが前半対等以上に戦っていても、後半になって、スピードが落ち劣勢になってしまうことはたびたび目撃されることである。これを補うのは最後までスピードを持続するスタミナである。1977年熊本で男子世界選手権大会が開催され、日本チームの采配はスエーデン人のオールソン監督に託されたが、彼は、伸ばせない身長を補うために体重に目をつけ、選手に6食の食事とトレーニングを課し、当たり負けしない身体作りをしたのである。日本チームは決勝トーナメント1回戦で当時トップレベルにあったフランスと好試合を演じ、タイムアップ寸前に追加点を許し、1点差の負けを喫したのであるが、競技力の一つの要素に体重というものに目をつけた指導法であった。 
 男子でリオの選手は95.4㎏で日本選手との差は5.8㎏、女子では70.8㎏で差は8.4㎏である。女子ではこの体重差はかなりのプレッシャーと感じているのではと考えられます。

リオ体重

3)年齢

ここに表す平均年齢は競技者としてピークに達する年齢と考えられる。男女とも大きな差はなく、平均では日本男子の26.8歳がもっとも低く、リオ男子の28.4歳が最高齢である。その差は1.6歳であり、女子はその間にあり、リオと日本でほぼ同じ平均値を示している。平均年齢に関する限りリオと日本で大きな差はない。

リオ年齢

下表は、各年齢層の度数分布である。ハンドボールはチームスポーツであり、個々の選手がチーム内で果たす役割も多様である。次代を背負う若い選手、経験豊富なベテラン選手も必要である。21〜22歳のカテゴリー以下の年齢は大学生・高校生の年代であり、フル代表の中では若く次代の選手かと考えられる。リオでは22歳以下の選手が男子15名、女子20名入っている。日本では男女ともその年代の選手は入っていない。
次にベテラン選手である。競技年齢として35歳を過ぎればベテラン選手で、体力的・技術的にはピークを過ぎていると考えられる。ただベテラン選手の戦略的、戦術的能力は高く評価されるものがある。競技を通して経験の伝授やゲームでのワンポイント出場などで重要な役目を果たすことが期待される。リオの男子で20名、女子で14名、日本選手では女子のみ2名の選手が登録されている。

表3 年齢段階と選手数

表5

4)国際試合数

下表は国際試合数をグラフ化したものである。
試合数は、選手が国を代表してゲームをした回数であり、国際的にどれくらいもまれているかを表している。国内を出て、他国と試合することは、国内でのゲームではできない経験をえることであり、競技力向上にとって重要である。
リオに出場した選手の平均は男子で95.2回、女子で88.1回の国際試合を経験している。強くなればなるほど、国際大会に出る機会が増える。また、その国の競技に対するバックアップや地理的条件などが関与する。日本の男子では23.8回、女子で43.9回であるが、リオの出場選手に比べてそれぞれ、25%、50%の出場数であり大変少ない試合数と言える。

国際試合数

下表は出場回数別の度数分布表である。
100回以上の出場数の選手は男子69人(40%)、女子53人(31%)と高い値である。日本では男子で1名(5.6%)、女子3名(13.6%)である。

表4 国際試合出場数と選手数

国際試合出場数

5)国際試合得点数

 下記のグラフは国際試合で得点した平均と最大、最小を示したものである。この得点数はゴールキーパーを除いて、国際試合の出場数に比例して累積していくものと考えられるが、グラフも似通ったものになっている。

国際試合得点数

利き手

図7は、1チーム当たりの左利きの人数である。左利きの存在は、技術的にも、戦術的にも大きな影響を与えるものである。1チームに3人くらいで大きな差は認められなかった。日本は男女とも5人であるが、チームの人数が多いために、割合で示すと差はなくなる。

リオ・左利き

まとめ

まとめ ハンドボールにかかわらず国際競技力が最大限に発揮される舞台は、オリンピックと世界選手権大会である。この両大会に出場するチームは、競技団体の最終的な強化の成果であるとともに、競技団体をバックアップする国家のスポーツ施策の成果でもある。出場する選手は、その競技のモデルとも言える。
 競技力は技術×戦術×体力×精神力の要素が総合的に発揮されたものと考えることが出来る。今回の分析では、出場する選手の身長、体重、年齢、国際試合出場数と得点であり、競技力を構成する要素の一部である体力の形態面、及び強化の施策面を表す国際試合の参加数や得点数、また、人の成長過程の中にあって、最高のパフォーマンスを発揮出る年齢を統計処理して平均的な競技者像をみてみた。
・身長・体重では男子が191.5cm・95.4kgであり、女子では176.0cm・70.8kgである。
・ 年齢では男子28.4才、女子27.6才であり、その差はわずかである。
・ 国際試合出場数・得点では男子が95.2回・218.4得点であり、女子では88.1回・188.2得点である。
 これらの結果と日本チームを比較すると、年齢を除いてその差は顕著である。日本はヨーロッパから離れた島国であることから国際交流に不利なことや民族的な資質から形態面の不利は免れることができない。この不利を乗り越える道は、端的には普及と指導者の養成、そして強化施策にかかっている。

(参考資料)
2013男子・女子世界選手権大会出場選手の国別、成績別身長・体重について

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