7.巧みなゲーム運び

実際のゲームでは、相手チームに予測される攻防戦術に対しての作戦が実行されます。巧みなゲーム運びとは、自チームの作戦を進める方で、相手チームの作戦やその変更に対して、的確に対処し、より有利に試合を進めていくことです。このゲーム運び如何によって、勝てるはずのゲームを落としたり、その逆のことがおこったりします。ゲーム構想の構築や作戦は主にベンチ側・指導者側に委ねられているものですが、選手の経験が進み、年令の積み重ねとともに、その才を発揮する場面は多くなるものです。ベンチの不作法で負けるほど、チームの痛手は大きいものはありません。指導者のゲーム統率能力とともに、選手がゲームの中で主体的に作戦行動がとれる能力を育てていく必要があります。
 選手のなかにゲームメイク能力、ゲームリダーを育てる事は、選手側かからの作戦実行に欠かせないものであり、その養成は重要です。形態的に劣る日本としては、この分野をもっと研究し世界をリードしていくものに育て上げたいものです。
 表3は、資料として少し古いですが、各国のゲームに対する作戦、戦略の考え方の一部を知るものとして興味深いものです。
 1977年熊本での世界選手権大会の上位3ケ国のセットオフェンスでのフォーメーションの種類と相手に対して使用した回数を示したものです。優勝はロシア(RUS)、2位はスウェーデン(SWE)、3位はフランス(FRA)でした。

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フランスは5つのフォーメーションがあり、この3チームの中では最も多くフォーメーションを使用するチームでした。スウェーデン戦、ロシア戦では、その使い方に特徴があり「フォーメーション5」をロシア戦にのみ使って対処しています。フォーメーションを行った30回のうち突破に至ったのは10回と割合は高くありませんが、基本的な攻撃とフォーメーションを組み合わせる事により、セットオフェンスでの攻撃を有利に導こうとしていた意図が読み取れます。
 スウェーデンは10種類のフォーメーションをもっており、この3チームでは最も多いものでした。そして、フランス戦とロシア戦ではそのフォーメーションの使い方を変えていて、このチームのセットオフェンスの戦略的な思考が伺われます。
 この2チームに対して対照的なのがロシアでした。フォーメーションはフランス、スウェーデンに対してそれぞれ1回のみでした。圧倒的な個人の能力の高さと形態面を武器に対処している様が浮き出てきます。チームのトレーニング環境が、フォーメーションの習得の時間を許さないのか、個人の能力を全面に打ち出して戦う作戦を重視しているかわかりませんが、ロシアがフランスやスウェーデンのようなフォーメーションを作戦的に使用すれば、また違った戦い方が見られるはずです。
 ここに示した例は、世界のトップレベルのものですが、競技レベルに関係なく、それぞれの指導者が、ゲームに対するしっかりとした考えをもってゲームに臨んでいくことが、日本のレベルアップにつながることです。試合は日々の練習に取り組む時間を考えれば、一瞬であります。巧みな試合運びができるよう、準備を十分に行い日々のトレーニングを有効にしたいものです。

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(参考資料)
2016リオ・オリンピックにおけるハンドボール男女出場選手の チーム別に見た身長、国際試合出場回数等について
2013男子・女子世界選手権大会出場選手の国別、成績別身長・体重について

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