研究例5 ハンドボールに関する攻防活動の評価

平岡秀雄、田村修治、栗山雅倫(東海大学体育学部)

キーワード:戦術、エリア解析、2次元DLT

1、はじめに

集団競技の攻撃戦術における共通課題の1つである「空間的優位をつくる」1)という観点から、エリア解析システム2)を構築し攻撃経過を評価できるようにした。これにより、シュートの成否だけでなく、攻撃側が如何に防御ゾーンに侵入出来たかを検証出来るので、攻撃の良否をも評価できるようになった。
そこで、本研究は世界選手権大会の決勝戦とオリンピックアジア予選の日本戦の攻撃占有エリア獲得状況を比較し検証すると共に、日本チームの今後の課題を見出すことを目的とした。

2、研究方法

1)分析対象:1998年世界女子ハンドボール選手権大会決勝戦におけるノルウェーの攻撃と2002年アテネアジア予選ハンドボール大会の日本の攻撃とした。

2)研究手順:試合場面を観客席の上部から固定した1台のカメラで撮影(Fig.1)した。

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Fig.1 Picture took from upper side   Fig.2 Display Picture of Digitizing

撮影した画像でシュートに至る直前の5秒間を対象に2次元DLT解析装置で座標を入力(Fig.2)し、各選手の位置を補正(Fig.3)した。

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Fig3  Picture of display which a player's position were revised with two-dimensional DLT method.

補正データはエリア解析システムを介して攻撃占有エリアとして計算された。占有エリアの獲得状況を相関係数で数値化し、攻撃活動を評価出来るようにした。

3)攻撃占有エリアの計算

攻撃者の位置から半径1.5mの円を描き、そ
のエリアがフリースローライン内に進入した
場合「攻撃占有エリア」として計算した。但
し、防御者の占有エリアが攻撃者のそれと重
なった場合、攻撃占有エリアから差し引いて
計算された。                     

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Fig.4  White circle show an occupation area of offense player.

Fig.5は攻撃占有エリアを解析中の画面である。図中下方に時間経過(横軸)に伴い、攻撃占有エリアが変化する様子を見ることが出来る。このデータをエクセルデータに変換し、時間経過に伴う攻撃占有エリアの変化を相関係数として数値化し、直線回帰図として示した。

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Fig.5 Picture of display on attack

4)攻撃占有エリアによる攻撃評価

平岡3)らは、シュートの直前において時間経過に伴い攻撃占有エリアが増大する(相関係数が高くなる)場合、攻撃側がゴールエリア前の空間で有利に展開できたと仮定し比較した。その結果、熟練した指導者が「空間を攻める」という観点から「良い攻撃」と判断した攻撃のエリアの変化(相関係数の平均値 0.646)と全得点のエリアの変化(相関係数の平均値occupation area. 0.423)の差を検定した結果、5%水準で有意な差が見られたと報告している。

得点できた攻撃の中には、「良い攻撃」と言えないものがあったためと思われる。つまり「攻撃占有エリア」は、指導者の攻撃評価を、より正確に表していると言える。

3、結果と考察

以上の観点から世界選手権大会決勝におけるノルウェーの攻撃(前半)とアテネアジア予選の日本の攻撃(前半)を攻撃占有アリアの獲得状況から比較するために示したのが、Fig.5及びFig.6である。各攻撃での攻撃占有エリアの経時的変化を視覚的に感知できるよう回帰直線(本来の使い方ではない)で示した。

右肩上がりの直線は攻撃経過に伴い、攻撃占有エリアを大きく獲得できたことを示している。
 ノルウェー(8/18回)、日本(8/20回)の両チームとも、攻撃の半数近くが相関係数0.6以上で、時間経過に伴い攻撃占有エリアを増加していた。

大会レベルは異なるが、競技レベルが同程度だったためと思われる。

4、まとめ

世界選手権大会の決勝戦とオリンピックアジア予選の試合を、シュート直前における攻撃占有エリアの増減から攻撃経過を評価し比較した。その結果、両者とも攻撃の約45%が良い攻撃であることが分かった。

防御エリアで有利な状況からシュートに至るほうが、その成功率も高くなることが予想される。攻撃占有エリアを指標の1つとして検証し、攻撃構想を構築することも考慮すべきと考える。

5、参考文献

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