研究例4 ハンドボ-ルのクイックシュ-トに関わる事例研究 第1報

-コ-チングの手順とその効果-

  • 平岡秀雄   (東海大学スポーツ医科学研究所研究員) 
  • 田村修治  (東海大学体育学部)
  • 栗山雅倫  (東海大学体育学部)
  • 花岡美智子(東海大学体育学部)
  • 島崎百恵  (東海大学札幌校舎) 
  • 寺尾 保  (東海大学スポーツ医科学研究所)

Case Study on Quick Shot Skill of Handball
Hideo HIRAOKA , Shuji TAMURA , Masamichi KURIYAMA,Michiko HANAOKA  Momoe SHIMAZAKI , Tamotsu TERAO

               Abstract

This research verified the validity of practice contents and coaching procedure for successful quick shot to deceive an anticipation of a shot course by a goalkeeper. At first, subjects were coached the shot of full swing followed by one step run-up to shot. Next, subjects were coached the way to change a path of ball at the process of forward swing for shot. Then, It was able to shorten an movement time before releasing a ball and to deceive an anticipation of a shot course by a goalkeeper in this way.

A practice contents and procedure for coaching were carried out as scheduled. Movement time for quick shot after coaching was significantly shortened compare with one of before coaching. And the success rate of shots to the reverse side of the movement by goal keeper raised significantly after coaching.

It became clear that a practice contents and procedure of this study were effective to improve a quick shot skill.

Ⅰ はじめに

スポ-ツを指導するコ-チが最も重視すべき研究課題は、“技術や戦術を理解させ、ゲ-ムの状況に応じて習得した技術や戦術を発揮する能力を向上させるための、合理的な道筋を明らかにする”ことであると考える。それは、ハンドボ-ル競技においても同様である。ところが、未熟練者と熟練者の技術や技能に関わる現状を分析・比較することにより未熟練者の課題を明確にし、指摘する横断的研究報告1-5)は多く見受けられるが、それらの課題をどのように指導すれば、期待する成果を得る事ができるかについての縦断的研究報告、つまり指導の道筋を示す報告は見当たらない。これは、指導者が最善と考える指導手順を用いて担当するチ-ムを指導するので、コントロ-ル群などを設けた複数の指導法を比較するといった、いわゆる科学的な検証方法に馴染まないためと思われる。結果的に、コ-チにとって最も重要となる指導事例は、発表の機会を失っていると考える。そのため、多くの指導者は同じような失敗を繰り返しながら、時間をかけて自己に合った指導方法を確立していくことになる。

ハンドボ-ルに限らずスポ-ツ界全般のコ-チングスキルを今以上に発展させるためには、出来るだけ多くの指導者が、現段階での最善と考える指導方法をまとめて報告すべきと考える。たとえそれが限られたスポ-ツの、特別な技能を向上させるための合理的な方法であっても構わない。多くの指導者が数多くの指導成果を報告すれば、指導の成果を得るためのプロセスに共通性を見出すことが可能となり、指導のパタ-ンを分類出来るようになるからである。これによりデ-タの集積と分類が成され、コ-チングに関わる科学的な第1歩を踏み出すことが出来ると言えよう。

コ-チングの分野では、たとえその研究報告が指導者による主観的な分析によるものであっても、指導者自身が指導の成果を実感できたかどうかが重要であると考える。指導の意図とそれを実現するための手順が記録され、指導者による指導成果の分析が適切になされていれば、たとえそれが客観的なデ-タを伴わない印象分析であっても、研究成果として十分とすべきである。

本研究の対象であるハンドボ-ル競技は、多くの球技と同様に敵味方が入り乱れて攻防を展開し得点を争う競技である。そのため、オフェンス(攻撃側 OF)はディフェンス(防御側 DF)の動きに対応した技術や戦術の発揮能力が要求される。シュ-ト動作において、たとえパワフルなシュ-トを発揮できるプレ-ヤ-でも、その動作に時間をかければ、DFにマ-クされ密着されて、シュ-トも出来なくなる。そのため、シュ-トの成否は、DFのマ-クが外れた一瞬をついて、シュ-トを出来るかどうかにかかっている。最高のシュ-トチャンスはパスを受けた瞬間にあるかもしれないので、パスレシ-ブと同時にシュ-トを行うための準備(バックスイング動作を完了)が出来ていなければ、最高のシュ-トチャンスを逃すことにもなる。

ところが、未熟なプレ-ヤ-はシュ-トの準備動作に時間をかけることが多いので、クイックシュ-トを覚えて、シュ-ト可能な時間帯を長くすることは、競技力を向上させる上で大きな課題と言える。

高度なシュ-ト技術やシュ-ト戦術を検証するには、競技レベルの高いプレ-ヤ-の技能に着目することになるが、それらの試みは既になされている6,7)。

競技レベルの高い試合では、ディフェンスが壁を作る側(ブラインド側)にシュ-トを行った場合、その成功率が高くなるという報告もある6)。このとき最も重要なことは、シュ-ト動作の主要局面であるフォワ-ドスイングの途中で、ボ-ルの軌跡を変化させることであると述べている。

そこで本研究はハンドボ-ルのクイックシュ-トにおいて、ゴ-ルキ-パ-(GK)が行うシュ-ト阻止動作の逆方向にシュート出来るよう指導したあと、シュ-ト成功率が向上したかを検証することにより、その際の指導内容及び指導手順の有効性を実証するものである。

Ⅱ 方法

まず、パスレシ-ブ直後にフォワ-ドスイングを可能とする、クイックシュ-トのための準備方法とその実践方法を指導した。次に、シュ-ト動作のフォワ-ドスイング途中でボ-ルの軌跡を変える方法を指導した。 >

1 被験者

16歳から18歳までの高校女子ハンドボ-ル選手11名を対象とした。

2 指導内容と指導のポイント(以下右腕投げの場合で説明)

1)クイックシュ-ト方法の指導

シュート動作は、パスレシ-ブ直後の準備局面(バックスイング)、主要局面(フォワ-ドスイング)、終末局面(フォロースル-)の3局面に分けることができる。シュ-ト動作の時間を短縮するには、この3局面の各動作時間を短縮する方法(体力的要素)とパスレシ-ブ動作の終末局面とシュ-ト動作の準備局面を融合させて、動作時間を短縮する方法(技術的要素)がある。本研究ではパスレシ-ブ後における助走の歩数を減ずることと、技術的要素である局面の融合により、シュ-トのための動作時間を短縮しようとした。
指導は以下の順序で実施した。

(1)パスレシ-ブ前の助走時期の課題と練習内容

運動課題1 空中でパスを受けたのち、1歩助走でスロ-が出来るようにする。
s2-4-z1図1-1空中でパスレシ-ブ  図1-2 右足着地(0歩) 図1-3 左足着地(1歩目)
Fig,1-1 Pass receive       Fig1-2  Right foot           Fig.1-3 First step

運動指示 

①空中でパスを受けたあと(図1-1)、右足“0歩”(図1-2)のつぎに左足"1歩目を着地(図1-3)"してシュ-トに至る。

運動説明
①パスを受けたのち1歩の助走で加速しながらシュ-トの準備を完了すると、DFが守備の準備をする前にシュ-トをすることができる。
②シュ-トをしようとしたときに、DFが正面でマークをする場合、2歩目でマ-クを外すための位置取りができる。その後3歩目(ジャンプ軸脚)を再度ゴ-ルに向かわせシュ-トをすることが可能となるので1人で行う攻撃のチャンスが増える。
③左腰がゴ-ル方向に突き出すようなフォ-ムになっているかをチェックする。ボールが身体の後方に位置するので、ボ-ルを押し出す距離が増え、ボ-ルを加速させやすくなる。

練習1 4人組み対人パス・・・空中でボ-ルを受けたのちパスをする。

練習方法
①左足を踏み切り空中でボ-ルを受ける。
②ボ-ルを中心に身体を前に進ませ、右足のつぎに左足を着地させてパスの軸足とする。
③軸足(左足)着地と同時にフォワ-ドスイングを開始し、右足を1歩踏み出すようにしてフォロ-スル-動作が大きくなるように投球する。パスは矢印のようにジグザグにパスをする(図2)。

 s2-4-z2

 図2 4人組み対人パスでの空中パスレシーブ
 Fig.2  Pass receive in the air

指導のポイント

①左足着地時に体幹がゴ-ルに正対するので はなく、左腰が ゴ-ル方向に突き出す よう なフォ-ムになっているか。
②スロ-の後で右足を1歩踏み出している かを確認する。こうすると、フォロ-スル-が大きくなるので、投速度を増加させやすくなる。
③お互いに仲間の動きを観察し、問題点を指摘できているかを確認する。
④ほぼ全員が課題を理解し実践できれば次の課題に進む.
        
運動課題2 パスレシ-ブ後、位置取りから1歩助走でクイックシュ-トをする。
運動指示 
①DFのマ-クを外してクイックシュ-トをする。
運動説明
①DFのマークを外した瞬間を攻めれば、DFの壁の隙間から意図するコースへシュートできるので、GKの動きの逆を突きやすくなる。
練習2 1歩助走からのシュ-ト
練習方法(図3)
①シュ-トをしたい位置の反対方向に移動し、補助者(●印)にパスをする。
②補助者にパスをしたのち弧を描いて走り、DFのマ-クを外すようにしてパスを受ける。
③空中でパスを受け右足(0歩)左足(1歩)とステップしてシュ-トをする。
 

s2-4-z3

図3 1歩助走でのシュ-ト

Fig.3 Shot followed by one step run-up.

指導のポイント                  
①まず空中でパスを受けられるよう、ボ-ルに合わせて助走を行なえているかをみる。
②1歩助走でシュ-トやジャンプが出来ているかを確認する。

練習3 位置取りからの1対1

練習方法(図4)
①左右の補助者にパスをした後にDFのマ-クを外すように、逆の弧を描くように助走してパスを受ける。
②DFのマ-クがずれた場合にのみカットインまたはシュ-トをする。
③DFのマ-クが外れるまで何度でも位置取りを繰り返す。

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図4 位置取りからの1対1

Fig.4  One-on-one shot after positioning.

指導のポイント
①カットインが直線的でなく、弧を描くようにできているかを確認する。カットインが直線的だとディフェンスに近くなり、カットイン動作を阻止されやすくなる。
②補助者からのパスが出される直前に走るコ-スを変えられているか。
コ-スを変えるとDFのマ-クを外しやすい点を伝える。

運動課題3 スロ-イング動作の準備局面をより早く作る。

運動指示 
①パスレシーブ時にボールを後方に引きスロ-の準備をするのではなく、ボールの位置より前に身体を進めてスロ-の準備局面を終了させる。

運動説明 
①パスレシ-ブの終末局面とシュ-ト動作の準備局面を融合させるので、局面を1つ省略でき動作時間を短縮できる。
②準備(バックスイング)動作を行う際、ボ-ルを後方に引くのではなく、ボ-ルを軸に身体を前方に移動させるようにする。この方法だとバックスイング動作(準備動作)がスム-ズになる。

練習4 ボ-ルを中心に身体を前進させる投動作の習得
練習方法(図5)
①補助者は片手でボールを顔の前に出し保持する。
②シュ-タ-は両手でボ-ルを保持しながら身体を前方に進めてスロ-の準備動作を
完了させ、片手でスロ-する。

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図5 ボールを軸に身体を進めてシュートの準備局面を準備する

Fig.5 Acquisition of shot skill to make backswing motion by advanced body to the
Front side.

指導のポイント(右腕投げの場合) 
①空中でボ-ルを保持し、右足の次に左足を着地してスロ-の準備ができている。
②フォワ-ドスイングの開始直前に身体が反って弧を描けているか。
③ボ-ルの位置を変えずに身体が前方へ進み、スロ-のための準備局面が作れているか。
④フォロ-スル-が大きくとれているか。

(2)フォワ-ドスイング時期の課題と練習内容

運動課題4 GKの動きの逆にシュートをする。

運動指示
①フォワ-ドスイングの途中に手首のスナップを使ってボ-ルの軌跡を変化させる。
 運動説明
①GKは飛来するボ-ルを見てシュ-トを判断し得点を阻止するための行動をするのではない。フォワ-ドスイン開始時期の前後に、シュ-トコ-スを判断し行動しなければ、ボ-ルを阻止する動作時間(応答時間)が足りなくなる。フォワ-ドスイングの途中でボ-ルの軌跡を変化させれば、GKは途中までの情報でシュ-トコ-スを判断するので、結果としてGKの逆方向にシュ-トを行え、得点の可能性が増大する。

練習5 フォワ-ドスイングの後半にボ-ルの軌跡を変化させる。

練習方法 練習3と同じ方法で

3 シュ-ト動作の比較・分析方法

指導の前後でシュ-ト動作に変化が現れたかについて、以下のような観点から分析し比較した。

1)シュ-トのための助走歩数

運動課題ごとにシュ-ト動作をVTRで撮影し、DKH社製のフレームディアスで60コマ再生して、パスレシ-ブ後ボ-ルリリ-スまでに要する助走の歩数を確認した。 

2)シュ-ト動作の局面融合

パスレシ-ブの終末局面とスロ-の準備局面を融合することにより、シュ-ト動作時間を短縮できるよう指導し、指導の前後でシュ-ト動作に変化が見られるかを確認した。シュ-ト場面のVTR画像を三次元解析し、ボ-ルのY軸成分(ゴ-ル方向)の速度を比較すると、より客観的に動作の違いを検証できる。バックスイング動作が大きい場合、助走速度(Y軸成分)よりボ-ルの後方への速度(Y軸成分)が大きくなるので、ボ-ルの速度がマイナスとなる(図6参照)。つまり、被験者がゴール方向へ移動する速度よりもボ-ルを後方(マイナス方向)へ引く速度が増すので、バックスイング時期にY成分の速度がマイナスとなる。一方、ボールを軸に身体を前方に移動して準備局面を作っている場合、ボ-ルの速度はマイナスとならない。
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 図6 Y成分のボール速度の変化(バックスイング動作が大きい場合の例)
 Fig. 6 Velocity curve of ball after full motion of back swing(component of Y-axis)

本研究では、上記のような3次元解析を数多く実施した経験から、VTR画像によるシュ-ト動作を印象分析することにより、その動作の違いを客観的に評価した。

3)ゴールキ-ピング動作の逆を突くシュ-ト割合

GKによるシュ-ト阻止動作の逆にシュ-トを出来たかどうかについて、運動課題ごとのシュート試技ごとにその成否を記録した。

4)1対1のシュ-ト場面でのシュ-ト成功率

運動課題ごとの被験者によるシュ-トの成否を記録し、シュ-トの成功率が向上したかを比較した。

Ⅲ 結果と考察  

1 シュ-トの助走歩数

レシ-ブ時からボ-ルリリ-スまでに各被験者が要した助走の歩数をVTR画像から分析し、比較したものが図7である。各被験者が自由なタイミングでシュ-トをするように指示した場合(図中 指導前と表示)、パスレシ-ブ後に 平均で約2歩の助走(平1.9545歩±0.2132)を使っていた。

重心を前方に移動させながらシュ-トをする方法(図中 ボール軸と表示)を指導した後で、各被験者に2回ずつシュ-トをさせた結果、被験者の平均助走歩数が減少する傾向を示した(平均1.8182歩±0.6645)ものの、自由にシュートさせた場合との間に有意な差(p>0.05)は見られなかった。次にフォワ-ドスイング中にボ-ルの軌跡を変更(図中 軌跡変化と表示)させ、GKの逆を突くシュ-ト方法を指導した結果、平均助走歩数は逆に増加する傾向(平均2.0455歩±0.5755)を示したが、指導前にシュートをした場合との間には有意な差が見られなかった。ところが、DFを配し、試合の場面に近い状況で各被験者に2回ずつシュ-トを行わせた結果、助走の歩数(平均1.1818歩±0.3948)は、指導前、身体をボ-ルの前方移動する、ボ-ルの軌跡を変化させるという3つの課題でのシュ-ト時よりも有意(p<0.01)に減少した。

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図7パスレシーブ後の助走歩数の変化

Fig.7 Change the number of run-up steps after ball receive for quick shot.

本研究の指導時間が1時間程度であったため、各課題が一応達成できたと判断した場合、その課題が定着出来ていなくても次の課題を指導した。そのため、新たな課題に意識が傾き、前の課題に十分な注意を傾けられなかったと思われる。助走の歩数は指導の途中で増加する傾向も見せた。ただ、1対1の場面では助走の歩数が有意に減少した。これは、クイックシュート技術を習得するための練習を重ねる中で、その技術がある程度定着したことと、DFのいる状況を設定してシュートを行わせたことが、シュ-ト動作時間の短縮に大きく影響を及ぼしたものと推察できる。

2 シュート動作の局面融合

図8及び図9は、指導前後のシュート動作例を示したものである。図8はクイックシュートを指導する前の動作を示したもので、パスレシーブ後にボールを大きく後方に引いているのが分かる。パスレシーブ時に左足が着地しているので、右足・左足の順に2歩進んだ後にボールリリースをしている。

一方、図9は空中でパスを受けており、身体がボールより前に進んでいるので、右足着地時にはシュート準備が完了している。そして、右足(0歩)・左足(1歩)の順に着地し、1歩助走でシュートに至っている。

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図8指導前のバックスイング動作の大きいシュート動作
Fig.8  Shot with full backswing motion before coaching.

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 図9 指導後、局面融合をしてバックスイング動作が小さくなったシュート動作
Fig.9 Shot with small backswing motion after coaching.

指導課題順に各被験者のステップ数の平均値を示したものが図10である。各被験者が自由なタイミングでクイックシュ-トを行った場合、ほぼ全員(図中 指導前)がバックスイングの大きなシュ-トを行なっていた。

次にパスレシ-ブ時にボ-ルを軸として身体を前方に移動させる新しいシュ-ト技術(クイックシュ-トに対応できるシュ-トフォ-ム(図中 ボ-ル軸)を指導したところ、46%の被験者が課題を達成できた。ところが、その後にフォワードスイングの途中でボールの軌跡を変更する方法(図中 軌跡変化)を追加して指導したところ、ボールを軸に身体を移動してシュートをする方法の達成率は32%に低下した。最後に、試合場面により近い1対1でのシュート(図中 1対1場面)では大幅に増加して73%となった。

身体を前方に移動させる新しいシュ-ト技術は、新たな課題を学習する過程ではその達成率が低下することもあったが、最終的には課題達成の割合が大幅に増加することが分かった。

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図10 指導内容別ボール軸投法の達成率

Fig.10 Success rate of shot by the shooting form to advance with a body centering on a ball

3 ゴールキーパーの逆にシュートを出来た割合

フォワ-ドスイング中にボ-ルの軌跡を変更させてGKの阻止行動の反対側にシュ-トをする方法を指導した際の課題達成率を、指導順に図示したものが図11である。

クイックシュ-トの指導前には、GKの動きの逆へのシュ-ト達成率が73%であったのに対し、ボ-ルを軸に身体を移動する投法を指導したところ、ゴ-ルキ-パ-の逆をついたシュ-トは41%と低下した。その後フォワ-ドスイング中にボ-ルの軌跡を変更出来るよう指導したところ、GKの逆を突くシュ-トは77%と増加した。次に1対1の攻防場面でクイックシュ-トを行わせたところ、その達成率は再び46%と低下した。指導前すでにゴ-ルキ-パ-の逆をつくシュ-トの達成率が73%と高かったのは、普段繰り返し行っている技術を発揮したことによるものと思われる。

GKの逆をつくためにフォワ-ドスイングの途中でボ-ルの軌跡を変更する技術は、1時間程度の指導では定着が難しいのか、その達成率は課題ごとに増減した。

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図11 ゴールキーパーの逆をつくシュートの成功率

Fig.11 Success rate of shot to deceive an anticipation of a shot course by a goalkeeper.

4 クイックシュ-トの成功率

図12は課題ごとのクイックシュ-トの成功率を示したものである。課題ごとにシュ-ト成功率は、68%、73%、95%、86%と、指導が進むに従って上昇する傾向が見られた。

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図12 指導段階別シュート成功率

Fig.12 Success rate of shot by each coaching step.

Ⅳ まとめ

本研究ではハンドボ-ルのクイックシュ-トにおいて、GKの動きの逆にシュ-トができる方法を指導した。本研究では指導時間が約1時間と短かったため、その達成率が途中で減少するケ-スも見られたが、指導の最後には増加した。本研究で示した指導内容とその指導手順は、より成功率の高いクイックシュ-ト方法を指導する上で有効であることが明らかとなった。

Ⅴ 今後の課題

本研究ではコ-チングの成果を分析する上で、指導を実施したコ-チの印象を重要視した。過去にVTRを介した3次元解析などの客観的分析手法を用いて、ハンドボ-ルのシュ-ト動作を解析した経験から、今回の印象分析の結果は妥当なものと考えている。

しかし、分析経験の浅いコ-チにとって、印象分析の結果に自信がもてない場合もあるので、コ-チングに関わる簡便な客観的デ-タの収集方法の開発が望まれる。また、コ-チと研究者が共同で、コ-チの印象分析結果の妥当性を検証できるようになれば、より多くのコ-チング事例が報告されることになり、コ-チングのスキルを向上させるための一助となると考える。

本研究では、コ-チングすべき課題、課題を解決すべき理由、実施した練習内容、指導上のポイントなどを、指導の手順に従い記録した。そして、指導の前後にVTR撮影し、撮影コマ数や印象分析法で、指導の成果を検証した。現場で指導するコ-チにとって、いつも高価な分析ツ-ルを使用できる環境にない場合が多い。コ-チングで得た成果を、身近なホ-ムビデオなどを用いて研究成果を報告できれば、コ-チング研究はよりきめ細かな発展をすると思われる。本報告がコ-チングに関わる研究報告方法の事例となれば、この上ないものとなると考える。

Ⅵ 参考・引用文献

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