研究例2 多用途ゲーム分析ソフトについて

-ノートパソコンを利用して-

平岡秀雄、田村修治(東海大学)栗山雅倫(早稲田大学大学院)木下雅史(東海大学大学院) 

キーワード:ゲーム分析 戦術 パソコン 多用途

Abstract

Coaches of competition sports are required to give players precise instructions at a meeting. Most of the coaches normally analyze the characteristics of opponent team before a match, but each coache’s view point for analyzing is different from each other.  Technical development of software for movie capturing and statistical data processing both on real time has become available in recent years, however, they are still expensive and not accessible to anybody. Therefore we developed and disclosed software to analyze a game. In 2000, we developed software that enables to analyze techniques or tactics of sports at two stages, but it was not enough to get a detailed data and not effective to correct a missed or mistaken data.  So new software was developed to improve and solve these matters.

 New software is able to analyze three stages. Development of software for sport, first started at Tokai University in 1999, is considered as effective method as it has been used at the University Handball World Championship, East Asian Games and Asian Qualifications for 2004 Athens Olympics to analyze matches of national team.

The software presented here is available to analyze the techniques or tactics of sports and to  grasp the characteristics of players or teams.

抄録

ハンドボールのような集団競技のコーチは、対戦するチームの特徴を分析し,ミーティングで選手に提示して次の試合に対処しようとする。このとき、各指導者の分析視点が異なるので、指導者の分析視点に合ったソフトの開発が必要となる。近年、画像データと統計的データをリアルタイムで同時に処理できるソフトが開発されているが、高価で誰もが使用できるまでには至っていない。

そこで、2000年度東海大学体育学部の研究教育補助を得て、時系列以外に2階層の項目を分析できるソフト3)を開発した。ところが、より詳細な分析データの収集やデータ修正時の簡便性などの要望多くあり、今回のソフト開発に着手した。

本研究で紹介する分析ソフトは、時系列以外に3階層の分析が出来る。しかも、データ入力時の誤りをその場で修正でき、その結果はエクセルデータとして自動保存できるので、作図も瞬時に行える。1999年に始めたスポーツ分析ソフトは、世界学生選手権大会や東アジア大会、アテネ予選でナショナルチームの分析班が、日本及び対戦チームの分析に使用している。

本ソフトを利用すれば、個人やチームの戦術を自分の分析観点で分析できるので、自チームのトレーニング成果や対戦チームの特徴を把握するのに有効と言える。

Ⅰ 目的

ハンドボールのように敵味方が入り乱れて攻防を展開する競技では、指導者は自己の経験を基に、相手の戦術などの特徴を把握しようとする。このとき指導者は、それぞれ異なった視点で分析する。ヤーン・ケルン5)は集団競技の攻撃戦術における共通課題として、「①防御ラインを突破する、②人的優位をつくる、③空間的優位をつくる」の3点を挙げている。これら戦術等を分析するため、指導者は自分独自の分析観点からゲーム分析を試みる。

ゲーム分析に関する報告は、過去多くの研究者や指導者が行っている。しかし、その大半は手集計によるもので、パソコンによるものは少ない。近年のパソコンの発達により、誰もが簡単に利用できるようになった。

そこで、本研究は3階層の分析項目を書き込め、データ入力時に入力ミスをしたデータをその場で修正出来るソフトの開発を目指した。そして、分析例とともに、パソコンによる分析の利点と利用方法を示し、研究者や指導者が客観的情報を入手する手段として利用できるよう提供するものである。

Ⅱ 方 法

多用途分析ソフトの作成に際し、プログラムソフト“デルファイ”を使用した。始めに多用途分析ソフトのデータ入力画面を示して説明した後、分析例を紹介して本分析ソフトの有用性を明確にする。

1、分析項目

ゲーム分析にあたって、研究者や指導者により分析視点が異なるので、ここでは、一般的な分析視点を紹介する。研究者や指導者のユニークな分析視点が、本ソフトを有効利用する上で重要となる。

<例:ハンドボール>

1)個人の記録項目例
2) チームの記録項目例
1)個人の記録         例

2、分析ソフトの作成と入力画面の説明

2000年度に開発した分析ソフトは、分析開始のたびに分析したい項目を入力する必要があった。そこで、分析項目を保存し、次回の分析では同一項目で分析する際に、再度の入力作業を省略できるようにした。

分析ソフトを起動した際には、「バックアップ」と「ニューリスト」のボタンを選ぶことが出来る。「バックアップ」を選択すると前回の分析項目が表示され、「ニューリスト」を選択すると新たな分析項目を入力し分析できる。

1)基本データの登録

3つの階層の分析項目を入力する画面が図1である。画面左が第1階層の項目入力欄で、右上が第2階層、右下が第3階層の入力欄である。第1階層の項目を入力する際に、2チームの「団体名」と項目を入力する必要があるが、1チーム分を入力し「コピー」ボタンをクリックすると2チーム目の項目が自動的にコピーされる。全項目が入力されると「データ登録」ボタンをクリックし、「画面切り変え」ボタンをクリックして入力画面を切り替える。

2)試合データの入力

次に試合開始の合図に合わせて「スタート」ボタンをクリックし、分析ソフトの時間をスタートさせる。

ゲーム中は、設定した分析項目に該当する事象が出現すれば、第1、第2、第3項目の順にボタンをクリックする。

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図1 基本データ入力画面(木下、2003)

3)試合データの保存

分析終了時に画面を切り替え「終了」ボタンをクリックすると、入力したデータはデスクトップ画面(多用途分析ソフトがデスクトップにある場合)に、ランニングスコアと戦術分析結果など、さまざまな視点での分析結果を得ることが出来る。

3、データの保存・処理方法

入力終了ボタンをクリックすると自動的に2種類のファイルが保存される。2つのグループ(2チーム)の時間経過、第1階層、第2階層、第3階層の項目がエクセルファイルの各列に記録されるランニングスコア(リスト)と、第1階層と第2階層の各項目の出現頻度を第3階層の項目ごとに一覧表(テーブル)にするものである。

本研究で紹介するデータ処理方法は、(財)日本ハンドボール協会のナショナルチーム分析班(以後、協会分析班と称す)の小笠原7)が作成した分析フォーム及び東海大学ハンドボール部が利用する分析フォームによるものである。

Ⅲ 結果と考察

分析の視点は、研究者や指導者のアイデアにより限りなく設定できる。ここでは、第1階層に3-3攻撃、4-2攻撃などの「攻撃導入時の形態」を、第2階層にブロックプレー、クロスプレーなどの「防御を突破した際のプレー」を、第3階層に得点、シュートミス、ターンオーバーの「攻撃成果」を入力した。

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表1 ランニングスコア 例 

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表2 導入形態別突破プレーの頻度

表1は協会分析班が使用する分析項目に従い入力したエクセルデータ(ランニングスコア)である。第1列に個数を、第2列に時間を、第3列に第1階層の項目(導入別攻撃形態)を、第4列に第2階層の項目(突破形態)を、そして第5列に第3階層の項目(攻撃の成否=得点、シュートミス、ボール保持ミス)が記録されている。別のグループ(相手チーム)においても同様(第7列から第9列)である。

表2は第1階層の攻撃導入形態と第2階層の突破形態の出現頻度を示したものである。
入力データは統計処理ソフトのエクセルデータとして保存されるので、作図などのデータ処理が簡単に行える。上記の階層別一覧表のデータを利用し、定量フォーム7)で処理したものが図2である。

第1階層の項目別の得点数(成功)と失敗数(シュートミスとターンオーバーの和)が表示され、項目毎の攻撃成功率も表示される。あらかじめ準備した分析フォームを利用すると、試合終了と同時に上記データを瞬時に表示できる。また、前半のデータを処理し、ハーフタイム中に後半の作戦を立案・修正する資料としても利用できる。

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図2 定量フォームによるデータ

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図3は2003年9月に開催されたアテネ予選の韓国チームのデータを処理し、導入形態別の突破プレーを得点頻度で示したものである。分析ソフトで得たデータの得点に関わる集計表を、エクセルの作図機能を利用して示したものである。

韓国チームの特徴は、3-3攻撃と1次速攻(1B)で得点している点である。しかも、得点の大半がパラレルプレーと個人技であるのが分かる。以上のように分析ソフトで得たデータを処理すると、図2や図3で示したように、チームの戦術的特徴を把握できる。

次にチームの特徴として明らかになった導入形態や突破のプレーの画像を、時間系列で記録したデータ(表1 List)を用いてキャプチャー(画像処理)することも出来る。

本研究は、研究者や指導者が独自の視点でデータ処理できるソフトを開発し、その有用性を紹介するものである。視覚的な画像と客観的なデータを組み合わせれば、有機的なミーティング資料を作成できると考える。

Ⅳ まとめ

時間系列に従い、3階層の分析項目を記録できるデータリスト(例:表1)と第1階層と第2階層のテーブルデータ(例:表2)を3階層の項目ごとに保存できるので、データの処理も瞬時にしかも簡単に出来る。また、動画とリンクさせれば、より有意な資料を作成することが可能となる。

以上の理由から、本分析ソフトは、研究者や指導者独自の視点で、あらゆるスポーツ種目の技術や戦術を分析する上で、有効な手段といえる。

V 参考・引用文献

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